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「障害者と笑い」書評 タブーと遠ざける振る舞い問う

評者: 寺尾紗穂 / 朝⽇新聞掲載:2018年11月10日
障害者と笑い 障害をめぐるコミュニケーションを拓く 著者:塙 幸枝 出版社:新曜社 ジャンル:社会・時事

ISBN: 9784788515901
発売⽇: 2018/08/31
サイズ: 19cm/254p

障害者と笑い 障害をめぐるコミュニケーションを拓く [著]塙幸枝

 子どものころ、街中で背の小さな人が歩くのを見て笑ったことがある。純粋に面白いと思ったが、もちろん隣にいた母に注意された。普通と違う人を笑ってはいけない、ということを、人は大人になるにつれて良識として身に着けていくようだ。本著は、人びとの「障害者はかわいそうな人で、決して笑ってはいけない」という観念ゆえに、「笑い」がまるで「障害」を語る際のタブーのように遠ざけられてきたことを問う。
 いつの間にか消えてしまった「小人プロレス」は、「見世物」を連想させる一方で、出演する当事者は芸人としての誇りを持っていた。「リングに立って何もしないでお客さん笑いますか」。ここには単なる見世物と批判できない、もう一つの側面が立ち上がっている。
 著者が「笑いのパフォーマーとしての障害者」を考えるにあたって参照するのはNHKの番組「バリバラ(バリアフリー・バラエティー)」だ。その前身の福祉番組の視聴者が「感動した」「励まされる」と感想を寄せる健常者中心だったのに対し、内容の見直しと改編を経て、当事者が見て感想を寄せる番組に生まれ変わった。障害者によるお笑いは必ずしも笑えなかったり、考え込まされたり、引っかかりを感じさせるものもあるが、著者はこうした円滑さにかける「コミュニケーションの失敗」とも言うべきものに光を当てている。
 博士論文がもとになっており読みにくい部分もあるが、「妥当な障害者像」や「妥当なコミュニケーション」といった、私たちが身に着けた認識や振る舞いを振り返る契機になりうるものとして、障害者パフォーマンスの複合的な意味を探る試みは重要だ。「コミュ障」という言葉が生まれるほど円滑なやりとりが奨励されるこの社会に、本当に必要なコミュニケーションとは、遠ざかっていた「他者」と出会いなおし、不器用に会話を始めることなのかもしれない。
    ◇
 ばん・ゆきえ 1988年生まれ。神田外語大専任講師(コミュニケーション学)。国際基督教大大学院博士課程修了。