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「ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ」書評 謎解きのあと 背すじ凍る恐怖

評者: 諸田玲子 / 朝⽇新聞掲載:2018年11月24日
ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ 上 著者:A.J.フィン 出版社:早川書房 ジャンル:小説

ISBN: 9784152097965
発売⽇: 2018/09/19
サイズ: 19cm/299,3p

ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ(上・下) [著]A・J・フィン

 アガサ・クリスティーやパトリシア・ハイスミスを読みふけっていた昔に戻ったような気がした。「カサブランカ」「暗くなるまで待って」「見知らぬ乗客」……随所にちりばめられた往年の映画のタイトルにも郷愁を誘われた。
 といってノスタルジーにひたるようなミステリーではない。時は現代、場所はニューヨークのハーレム。広場恐怖症で豪邸にこもりきりの主人公アナの外部との通信手段はSNSと携帯電話だ。今風に精神分析医やサイコパスまがいの人物も登場する。が、喜ばしいことに、無差別大量殺人や快楽殺人は出てこない。
 事件の始まりは、これまたヒチコックの「裏窓」へのオマージュのよう。引っ越してきたばかりの隣家を覗き見していたアナは、殺人を目撃する。が、酒と薬による妄想癖に悩む彼女ゆえ、警察に通報しても信じてもらえない。自分でも何が現実かわからなくなりかけているところへ次々に起こる不審な出来事、謎めいた隣人たち、怪しげな間借り人の男……。
 この小説にはいくつもの巧妙なトリックがしかけられている。とりわけ謎を解く鍵になる二つのトリックは驚きに満ちている。中盤で最初の真実が明らかになったときは、ページを繰る手を止めて茫然自失したものだ。アナの抱える孤独、苦悩、悲痛、それにはこんな原因があったのか、と。腑に落ちたとたん、物語はがぜん面白くなる。きっとあなたもアナと一緒に惑い焦り、頭をかかえるにちがいない。そしていまひとつ、最後の謎が解けたときの背すじの凍るような恐怖と、それにつづく息もつかせぬクライマックス……。
 本作はすでに映画化が決まっているという。シリアル・キラーばやりの昨今、こういうオーソドックスな(?)ミステリーを愛するお仲間がいることに安堵した。定番? いえ、スリル満点、驚かせ泣かせカタルシスを味わわせてくれる大道こそが今や新鮮である。
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A・J・Finn 作家、編集者。デビュー作の本書は英米で100万部以上を売り、30カ国以上で出版されている。