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「セゾン 堤清二が見た未来」書評 理念先行の経営 魅力と限界

評者: 石川尚文 / 朝⽇新聞掲載:2018年12月01日
セゾン 堤清二が見た未来 著者:鈴木 哲也 出版社:日経BP社 ジャンル:経営・ビジネス

ISBN: 9784822256050
発売⽇: 2018/09/25
サイズ: 20cm/309p

セゾン 堤清二が見た未来 [著]鈴木哲也

 企業の栄枯盛衰とともに、経営者の評価が高下するのも世の常だ。もてはやされては、地に落ちる。最近もそんな例があった。
 とはいえ、単なる浮き沈みを超えて、社会に根付く何かを残す人物もいる。
 西武百貨店を核にしてセゾングループを築いた堤清二氏。詩人・作家の辻井喬としても知られた異能の経営者は、バブル崩壊後にグループの解体を迫られ、2013年に死去した。
 本書の著者は日本経済新聞記者としてグループの末期を取材した。堤のことを巨額負債をつくった「A級戦犯」、消費社会の「あだ花」と描いた1人という。
 だが、「紋切り型の評価」で歴史に葬っていいのだろうかとの疑問から、その足跡をたどり直す。堤が育て、手放した事業の現在に至る姿を追い、その射程に光を当てたのが特徴だ。
 筆頭は「無印良品」。スーパー西友のプライベートブランドとして80年に生まれ、90年代末に債務減免と引き換えにグループから離れた。いまや国内外に900店舗を広げるこの事業こそ、「堤の思想の結晶」だと著者は指摘する。
 堤は父から引き継いだデパートに「ブランドや文化の〝香水〟をふりかけて、一流百貨店の仲間入りを果たした」。その絶頂期に、ブランドを否定し「反体制商品」として生み出したのが無印良品だった。
 「無印」自体がブランドではないかとの疑問も浮かぶ。堤もその危険性を気にしていたという。本書が描く無印の曲折をみても、この矛盾は解けてはいない。むしろ、堤が抱える矛盾こそが、消費者をひきつけてきたと著者は指摘する。
 「モノ消費からコト消費へ」を先駆けた西武百貨店。若者文化への感度が高かったパルコ。遊びの要素を重視したロフト。「アイデアが形になると興味を失う」という理念先行はときに経営を制約し、部下や継承者は苦闘した。その葛藤の軌跡は、今の経済を考える材料に富んでいる。
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 すずき・てつや 1969年生まれ。「日経ビジネス」副編集長などを経て、日本経済新聞企業報道部次長。