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「チャーチルは語る」書評 国民動かした「言葉」でたどる評伝

評者: 保阪正康 / 朝⽇新聞掲載:2018年12月15日
チャーチルは語る 著者:チャーチル 出版社:河出書房新社 ジャンル:伝記

ISBN: 9784309207513
発売⽇: 2018/09/25
サイズ: 20cm/618p

チャーチルは語る [編]マーティン・ギルバート

 20世紀の政治家を語る時に、いつまでもチャーチルの名は語り継がれるはずだ。「言葉」で国民を動かし、第2次大戦を勝利に導いたからだ。
 1940年7月、ドイツ軍機の攻撃に耐えつつ抵抗するイギリス国民に向けて「(この戦争は)国民の戦争であり、大義の戦争である」と訴え、「無名戦士の戦争」であるとも呼びかけた。ヒトラーの邪悪な呪いを取り除こうと述べた。
 編者はチャーチルの公式伝記作家で関連の著作も多い。チャーチル自身の著作や演説の中から200編を選んで少年期から編年的に引用していく。評伝を読むごとくに構成されている。
 チャーチルはイギリスの名門、ハロー校で学ぶ。第2次ボーア戦争では特派員として捕虜の体験をもつ。25歳で政治家になるのだが、保守党の一員でありながら党を批判するなど、気骨がある政治家であった。その真骨頂は第1次大戦の国難の時から発揮される。
 開戦後の1915年には閣僚の一員として「行動せよ。いますぐに行動せよ。信念と勇気をもって」と、国民を励ます。戦争終結後には陸軍大臣として、ヨーロッパの救済は英、仏、独の「三か国の協力」にかかっていると書いた。しかし現実はそうはならない。ヒトラー政権が誕生すると、「西洋で最も強く最も危険な国民が、近代設備とともに憤怒を抱いて中世の状態に逆戻りした」と評した。
 40年、首相に就任。第2次大戦下では我々は民族間の戦争をしているのではないと強調、「独裁が我々の敵である」と演説した。
 イギリスは勝ったが、彼の役割は終わったと国民に審判される。国民の協力に感謝する首相退任時の声明には指導者の矜持がある。
 チャーチルは「ヨーロッパ合衆国」構想を提唱していた。しかし、イギリスはその中に入らないという。今、EUを離脱しようとしているイギリスは彼の教えに従ったのかもしれない。本書を読み、そう考えた。
    ◇
 Martin Gilbert(1936-2015) イギリスの歴史家。著書にチャーチルの伝記6巻、『第二次世界大戦』など。