1. HOME
  2. 書評
  3. 「胃弱・癇癪・夏目漱石 持病で読み解く文士の生涯」書評 文豪の素顔に病から迫る

「胃弱・癇癪・夏目漱石 持病で読み解く文士の生涯」書評 文豪の素顔に病から迫る

評者: 保阪正康 / 朝⽇新聞掲載:2018年12月22日
胃弱・癇癪・夏目漱石 持病で読み解く文士の生涯 (講談社選書メチエ) 著者:山崎光夫 出版社:講談社 ジャンル:日本の小説・文学

ISBN: 9784065133811
発売⽇: 2018/10/12
サイズ: 19cm/317p

胃弱・癇癪・夏目漱石 持病で読み解く文士の生涯 [著]山崎光夫

 夏目漱石は病気持ちである。3歳で天然痘、青年期には虫垂炎、腹膜炎、胃病や眼病、痔があった。中年以後は神経衰弱が重なる。
 著者は、そういう漱石の作品を「闇病(やみやみ)小説」と評する。人間の心の闇を「病んだ身体で書き綴った作品」というのだ。少年期に診察を受けた2人の医師(佐々木東洋、井上達也)も変人で、世間に阿らないタイプ。特技をもてば生きていけると知る。漱石自身は医師という仕事には魅力を感じず、文学者を目指した。
 明治40年、東京朝日新聞社に入社し、「新聞文士」となり、本格的に小説を書く。その前、2年間のロンドン留学から帰ってからは神経衰弱に悩まされ、家族への暴力は凄まじかった。作家活動を始めてから、症状は落ち着いた。
 本書は病から作家の素顔に迫っているので、文学論ではない。だが、漱石の作品には病をもつ人物がよく登場し、こうした病の症状が説明されている、という著者の視点が新鮮だ。