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「アナログの逆襲」書評 便利さで見失った力を再発見

評者: 黒沢大陸 / 朝⽇新聞掲載:2019年02月16日
アナログの逆襲 「ポストデジタル経済」へ、ビジネスや発想はこう変わる 著者:デイビッド・サックス 出版社:インターシフト ジャンル:経済

ISBN: 9784772695626
発売⽇: 2018/12/07
サイズ: 19cm/393p

アナログの逆襲 「ポストデジタル経済」へ、ビジネスや発想はこう変わる [著]デイビッド・サックス

 コンビニに足を踏み入れずに、まもなく2年。1カ月も続かないと思いつつ試してみたら、意外にも不便を感じず今日に至った。
 生活が少し変わった。まず、飲食が計画的になった。飲み物は家から持参、自作のおにぎりの昼食も日常だ。間食は減り、仕事帰りにビールも買わなくなった。発見もある。いつもの街角に、おにぎり屋、安い自家製サンドイッチをおく店を見つけ、小さな書店や文具店も目に入るようになった。週末は1週間の予定を考えながら買い物。何か足りなくなっても、あるもので工夫するのが楽しい。
 さて本書である。レコード、ノート、フィルム、印刷物、新しいアナログ製品に携わる人々に取材を重ねて見直された例を示しつつ、見逃していたアナログの隠れた力を明らかにしていく。近年、部数が減り続ける新聞業界としては心強い限りだ。もちろん、懐古的な感傷から過去を美化して最新技術を否定するわけではなく、再びアナログの時代に戻ると言っているわけでもない。
 それでも、登場する人々の言葉をたどれば、首肯できる主張は多く、デジタルに囲まれて育った世代には新しい発見があるだろう。特に、デジタルで狭められる創造性、教育への影響は考えさせられる。
 デジタルを使い続け「物事を極度に単純化する考え方に慣れてしまった」、「目的地がすぐそこに見えているのに」カーナビの指示に従ってしまう。買い物は消費への欲求だけでなく「社会と関わるための口実」、「教えることと学ぶことは、教師と生徒の関わり合いだ」。デジタルを経験したからこそ見える「その先」のアナログなのだろう。
 デジタル機器の弊害は指摘されてきたが、便利さを享受し続けていることの影響は思っていた以上に広く深く、思考の創造的な部分まで手放しつつあるように思えてくる。
 次は「脱スマホ」を試みたくなった。
    ◇
 David Sax 1979年生まれ。ジャーナリスト。ビジネス、カルチャー分野を得意とし、英米紙に寄稿。