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「図解 はじめて学ぶ みんなの政治」書評 異質な相手と論争するコツ示す

評者: 間宮陽介 / 朝⽇新聞掲載:2019年02月23日
図解はじめて学ぶみんなの政治 著者:国分良成 出版社:晶文社 ジャンル:政治・行政

ISBN: 9784794969996
発売⽇: 2019/01/10
サイズ: 24cm/127p

図解 はじめて学ぶ みんなの政治 [文]アレックス・フリスほか、[イラスト]ケラン・ストーバー、[監修]ヒューゴ・ドローションほか

 ちょっと見たところでは小学校高学年ないし中学校の社会科の教科書である。いや、漫画ふうのイラストだけを見たら、幼児向けの絵本と見まがうくらいである。文字が少ないから小一時間もあれば読み通すことができる。しかし読み終わったとき、それまでぼんやりしていた政治の風景が、くっきりした輪郭と確かなディテールを持ち始めていることに気づくだろう。
 なによりも政治に関する概念規定がしっかりしている。政治とは、政治システムとは、民主制とは、共和制とは。無味乾燥な学術書的規定ではなく、古代ギリシャ・ローマ以来、今日に至るまでの政治の仕組みや制度が、歴史性を帯びた概念として示される。ファシズムや権威主義的体制も政治システムの一つとして視野に収められている。
 政治上のイデオロギーについて1章が割かれているのも大きな特徴である。教育の現場では公平中立の名のもとにイデオロギーは腫れ物扱いされている。
 だが考えても見よ。政治という現象が生まれるのは人々の主義主張が人それぞれだから、一口でいうと、イデオロギーが多様だからである。イデオロギーの相違は政治の出発点だといっていい。イデオロギーを無視するのは政治を門前払いするに等しい。
 自分を絶対視するのが問題なのではない。大事なのは、異質な相手を説得できなければ自分の絶対性を主張することができない、ということである。理想主義と現実主義、リベラルと保守……。本書はそれぞれの言い分に理由があることを認めた上で、論争を促す。そして、論争のコツ(説得術)が例示される。
 本書を読んで思うのは、子供が政治的に成熟するのは、子供が大人として成熟するのと同じではないか、ということである。いずれも自己中心性からの脱皮を必要とするからである。本書は子供だけでなく、大人にも読んでほしい、楽しい「絵本」である。。
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 Alex Frith 英国のノンフィクション作家▽Kellan Stover イラストレーター▽Hugo Drochon 政治学者。