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「還流する魂(マブイ)」書評 離散しつながる沖縄の同胞たち

評者: 西崎文子 / 朝⽇新聞掲載:2019年06月01日
還流する魂 世界のウチナーンチュ120年の物語 著者:三山喬 出版社:岩波書店 ジャンル:国防・軍事

ISBN: 9784000245357
発売⽇: 2019/04/19
サイズ: 20cm/228,11p

環流する魂(マブイ) 世界のウチナーンチュ120年の物語 [著]三山喬

 「人それぞれ、思いはある。それだけの時代を彼女らは生きてきた」。米兵と結婚し、米国に定住した沖縄出身の女性に向けた著者の言葉である。第2次大戦前の沖縄では、10人に1人が海外移民となり、南北アメリカや東南アジアに渡った。戦後を含め、沖縄移民120年の軌跡を描く本書には、それぞれの生涯に対する共感があふれている。
 執筆のきっかけは2016年の「世界のウチナーンチュ大会」だった。世界28の国や地域から7千人以上が那覇に集い、海外移民の末裔と県民とが「同胞意識」を高めた一大イベント。南米の日系人社会を熟知する著者は、改めて沖縄からの海外移民と本土からの移民との違いに気づいたという。
 その違いの一つは、家族から移民を出したことが、沖縄では「明るく、さわやかに」語られ、恥の感覚が薄いことにある。移民たちの辛苦は並大抵ではなかった。奥アマゾンの密林でゴム採取に明け暮れた日々。第2次大戦中、フィリピンで抗日ゲリラや米軍の攻撃を受け、戦後命からがら引き揚げてきた歴史。それでもなお、この苦労を「すべて大切な歴史」と捉える寛容な空気感があるという。
 確かに日本の敗戦は暗い影を落とした。戦後も敗戦を認めようとしなかった「勝ち組」の多くが沖縄移民だった。本土移民からの差別ゆえに、過剰な愛国心を示したと揶揄されることも多い。しかし、著者はそう単純ではないと考える。それは言われるまま敗戦を受け入れるのを拒む反骨心の表れだったのではないか? そもそも、事実を曲げてでも信じたいことを信じる「勝ち組的性向」は本土にもあるのではないか?
 離散(ディアスポラ)が日常的だからこそ、沖縄では人々が還流し、つながってきた。「ヨコ」の人付き合いは、戦争と占領、基地の重圧の中でしっかり根を張っている。沖縄に犠牲を強い続けて平然たる本土が蔑ろにしているのは、このウチナーンチュの世界観に他ならない。
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 みやま・たかし 1961年生まれ。元朝日新聞記者。著書に『国権と島と涙』『一寸のペンの虫』など。