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「ともに悲嘆を生きる」書評 亡き人を心にとめ生の意味問う

評者: 保阪正康 / 朝⽇新聞掲載:2019年06月08日
ともに悲嘆を生きる グリーフケアの歴史と文化 (朝日選書) 著者:島薗進 出版社:朝日新聞出版 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784022630827
発売⽇: 2019/04/10
サイズ: 19cm/249p

ともに悲嘆を生きる グリーフケアの歴史と文化 [著]島薗進

 愛する人との死別や、深刻な喪失を経験した人。彼らと「ともに悲嘆を生きること」(グリーフケア)を社会的、歴史的に考察した書。
 具体的に解決策を説いているわけではないが、日本社会の現在の「喪」のあり方が浮かび上がってくる。
 著者によると、グリーフケアという語が知られるようになったのは、21世紀に入って、2005年のJR福知山線の脱線事故からだという。107人が死亡する大惨事だった。家族を失った人へのケアの一助として宗教家、作家らが著した書が、悲嘆と向き合い、それを支える社会を、と訴えたのがきっかけという。
 悲嘆と向き合う儀礼は、かつての日本にはあった。「喪の共同性」を通して人々は癒やされていた。喪とは悲嘆している人を遇する儀礼や行事を指すが、近年、この傾向は薄れている。悲嘆にくれる人たちが孤立する傾向にあるというのだ。
 半面で、喪の後退につれて、グリーフケアの集いのような場が増えつつあるという。子供を失った親たちの集い、心理学者や宗教家たちの作っているカウンセリングの場などが、それに類するのであろう。
 悲嘆に寄り添うといった形の研究は、欧米が先行している。今は病的な悲嘆に注目するのではなく、悲嘆全般を見つめようとする方向に向かっている。そこで見出された答えは「意味世界の再構築」だと、著者は指摘する。亡き人の像を心にとどめ、生きる意味を問い直そうとの試みである。カウンセラーのR・ニーメヤーは、グリーフのさなかにいる人へのアプローチを良い例、悪い例に分けて説明している。悲しみを分かち合う姿勢がいかに大切か私たちは学ぶことになる。
 著者が文学、哲学、宗教、心理学などの面から悲嘆を見つめるのは、悲嘆に寄り添う文化や場を今、私たちは作りうるのかという問いを、自身にも発しているからであろう。その問いは、私自身も共有していることに気づかされる。
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 しまぞの・すすむ 1948年生まれ。上智大教授、同大グリーフケア研究所長(近代日本宗教史、死生学)。