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真保裕一「おまえの罪を自白しろ」書評 綿密な伏線重ね 展開ハラハラ

評者: 諸田玲子 / 朝⽇新聞掲載:2019年06月08日
おまえの罪を自白しろ 著者:真保裕一 出版社:文藝春秋 ジャンル:小説

ISBN: 9784163910048
発売⽇: 2019/04/12
サイズ: 20cm/313p

おまえの罪を自白しろ [著]真保裕一

 「たたいて埃の出ない者など、世の中にはたぶんいない。……中略……人は罪を犯す生き物なのだ。」
 宇田一族の次男、本書の語り手の一人である晄司は考える。片や警部補の平尾宣樹も述懐する。
 「過去にただの一度も罪を犯してこなかった者など、いるはずがない。罪を暴く仕事に就く自分も、例外ではなかった。」
 身につまされる。世の中の理不尽にしょっちゅう腹を立てている私だけれど、声を大にして文句が言えないのはつい我が身と引き比べてしまうからで……。私が著者の小説に共感するのはそうした人の弱さ愚かしさを許容した上で、丁々発止の物語を展開してゆくところだ。横柄さ尊大さがあっても、等身大の登場人物は野心と正義感、欲と情の狭間で常に葛藤している。
 さて、本書では冒頭で三歳の幼女が誘拐される。犯人の要求が身代金ではなく政治家の祖父の汚職の罪の自白であるところが意表をつく。マスメディアを使ってスキャンダルを広める策略も、その指示をウェブサイトに書き込む周到さも現代の犯罪ならでは。今や日常茶飯事となった謝罪会見や身近なネットの脅威が臨場感たっぷりに描かれる。さらに政治家同士の忖度や家族間の愛憎、警察との駆け引き、露わになってゆく過去……こんなことあるなと苦笑し、やはり弱い者が犠牲になるのかと幼女の安否にハラハラドキドキ、手練れの著者は読者に息もつかせない。しかも手のこんだ伏線が幾重にも張りめぐらされているので、タイトルを逆手にとった鮮やかな事件の解決まで、これでもかと翻弄させられる。
 「有権者が地元に落ちる金にしか興味を持たないから、政治家も金を追いかけていく現実がある。鶏も卵も一緒くたになって、日本の政治は回ってるんだ」
 随所に鋭い舌鋒が展開されるが、著者は単純な勝ち負けを良しとしない。晄司と平尾のほろ苦い決着が、それを物語っている。
    ◇
 しんぽ・ゆういち 1961年生まれ。作家。著書に『ホワイトアウト』『奪取』『灰色の北壁』など。