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「平成経済 衰退の本質」書評 負の遺産の30年 脱却できるか?

評者: 本田由紀 / 朝⽇新聞掲載:2019年06月15日
平成経済衰退の本質 (岩波新書 新赤版) 著者:金子勝 出版社:岩波書店 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784004317692
発売⽇: 2019/04/20
サイズ: 18cm/216p

平成経済 衰退の本質 [著]金子勝

 どのように政府が粉飾しようとも、日本の経済は、平成の30年の間に明らかに衰退を遂げた。なぜこうなってしまったのか。
 著者は、世界的な資本主義の変質から説き起こし、金融自由化とグローバリゼーションの中で新自由主義が浮上してきた流れを論じる。その中で日本は、バブル経済崩壊後の不良債権や経営破綻、そして原発事故の処理において、経営者も監督官庁も責任逃れと失敗のごまかしを繰り返してきた。「構造改革」と規制緩和は、新産業の創出をもたらさず、逆に社会保障と地域財政に打撃を与えた。皮肉にも、過去からの日本の「無責任の体系」(トップが責任をとらないこと)が、市場と一般市民の自己責任を重視する新自由主義と共振してしまったのである。
 失敗の集大成とも言うべきものがアベノミクスである。日銀の超低金利政策と国債・株式の大量購入は、〝出口のないネズミ講〟と化している。オリンピックや万博などのイベント誘致は、古い産業と「ゾンビ企業」を延命させ、産業の新陳代謝をむしろ遅れさせている。有効な処方箋を打ち出せてこなかった経済学の現状に対しても、著者は厳しい批判を投げかける。
 格差拡大に不満を募らせる各国の国民は、トランプを典型とするポピュリズム政治を生み出したが、これについても日本は特殊である。著者曰く、演説や答弁の能力が低い安倍晋三首相は、成果の出ない見せかけのスローガンだけを次々に掲げ、国民の中に無力感とニヒリズムを浸透させるという黙従型のポピュリズムを作り出している。
 本書の分析は読者を暗澹とさせるだろう。しかし著者は、日本の現状から脱却するための具体的な提案を終章で示している。そこから先を引き受けるべきは幅広い国民である。「われわれに残された時間は多くない」と著者は締めくくる。平成は終わった。しかしその負の遺産が、私たちの肩に重くのしかかっている。
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 かねこ・まさる 1952年生まれ。経済学者。著書に『市場と制度の政治経済学』『資本主義の克服』など。