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「若い読者のための『種の起源』」書評 難解な名著くじけずに読むために

評者: 黒沢大陸 / 朝⽇新聞掲載:2019年07月13日
若い読者のための『種の起源』 入門生物学 著者:チャールズ・ダーウィン 出版社:あすなろ書房 ジャンル:生命科学・生物学

ISBN: 9784751529379
発売⽇: 2019/05/23
サイズ: 20cm/224p

若い読者のための『種の起源』【入門 生物学】 [著]C・ダーウィン[編著]R・ステフォフ

 「通讀(つうどく)し終るだけの根氣(こんき)のある人は多くあるまいと思はれます」
 誰もが知る『種の起源』。昭和7(1932)年に発行された岩波文庫第3刷の訳本序文にはこう書かれている。翻訳者の小泉丹(まこと)は、予備知識や指南なしに通読しようとするのは、無駄、無益であって、むしろ損をする、とまで述べ、冒頭に長文の解説をつけている。評者も若いころ挫折しただけに勇気づけられた。
 いまは、平易に工夫された読みやすい訳本もあって、一つひとつの文章は理解しやすい。ただ、分量が多く、上下で800ページを超える本もある。通りがかりの書店で見たら新しい訳本の下巻だけが残っていた。
 夏休み、歴史的な名著そのものに挑戦するのは大切なことであるけれど、ダーウィンの思考過程に触れたいなら、正面から挑んで途中断念するのは惜しい。解説本にも頼りたくなる。
 「若い読者のため」の本書をどう読むか。1859年発行の原著を約3分の1に圧縮し、現代科学で誤りとわかった部分を割愛、説を補強する数多い証拠を絞り込んでいる。写真や挿絵、解説や最新の研究に関するコラムを含めて200ページ余りに収めた。
 神が生物を創造したと考えられ、科学的な知見が限られていた当時、何を観察し、どんな実験をして論を組み立てていったのか。じっくり1章ずつ思考をたどっても宿題の合間に読み切れそうだ。
 かつて断念した若くない読者も様々な読み方ができるだろう。強い弱いではなく、その環境に最も適応した生物が生き残る自然選択。いまの社会の空気のなかで、もてはやされる人や主張と重ね合わせ、環境や適者とは何かと考えた。
 冒頭の文庫本を手にしたのは京都の図書館。戦前から読み継がれた古本が、いまも現役で閲覧されている。誰が開き、どれだけの人が読了、あるいは断念したのか。そして、何を考えたかに思いをめぐらせた。
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Charles Robert Darwin 1809~82。英国の博物学者▽Rebecca Stefoff 米国の歴史科学読み物作家。