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「ぼそぼそ声のフェミニズム」書評 覇気のない「宣言」からはじめる

評者: 斎藤美奈子 / 朝⽇新聞掲載:2019年07月13日
ぼそぼそ声のフェミニズム 著者:栗田 隆子 出版社:作品社 ジャンル:社会・時事

ISBN: 9784861827518
発売⽇: 2019/05/30
サイズ: 19cm/224p

ぼそぼそ声のフェミニズム [著]栗田隆子

 学校になじめなかった。かけっこはいつもビリ。漢字も計算も苦手。〈現代だったら、「発達障害」などの名前がつけられ「支援」の対象になっていたかもしれない。それでも、私は自分をフェミニストだ、とどこかで思い続けてきた〉
 これまで読んだ本の中でも一、二を争う「覇気のないフェミニスト宣言の書」である。類書の多くはもっとハキハキしているし、わざわざフェミニスト宣言をする人自体少ないし。
 〈インターネットを見ていると、フェミニズム的な発言をしているのに、「私はフェミニストではない」とか、「勉強をしていないからフェミニストと言っていいかわからない」という発言が多くある〉
 ですよね、それが現状。フェミニズムはいつか大学で学ぶ学問になった(と思われている)。栗田隆子はそこに風穴を開ける。就活や婚活をめぐる制度にいじいじこだわり、女性の貧困の実態をぼそぼそ語り、ときにふてくされ、たまに怒ってテーブルをたたく。
 子どもの頃、氷室冴子の小説にハマッた。高校を不登校中、近所の女性センターで主婦にまじってフェミニズム講座を受講し、おかげで〈痴漢にあっても「相手が悪い」と思えるようになった〉。20歳をすぎて大学に入り、大学院にも行った。だけど……大学院をやめた後は派遣社員の口しかなかった。社会運動もしたけど何かがちがった。
 〈自分自身が非正規労働者で、独身であるということがそもそも、この社会の中で「ないことになっている」。目立ちたいわけではないが「ないものとされている」ことはたまらない〉
 それが彼女の原点。
 ハキハキ系の女性は上を見てガラスの天井に怒る。栗田隆子は床を見て、働くのが怖いとつぶやく。どこにも出口のない本である。しかしその分、ラジカルな問いを含んでいる。覇気がない? だから何? いじいじ、ぼそぼそからすべてははじまるのだ。
    ◇
くりた・りゅうこ 1973年生まれ。共著に『フェミニズムはだれのもの?』『高学歴女子の貧困』など。