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「〈性〉なる家族」書評 支配という暴力 子どもに重圧

評者: いとうせいこう / 朝⽇新聞掲載:2019年07月27日
〈性〉なる家族 著者:信田さよ子 出版社:春秋社 ジャンル:社会・時事

ISBN: 9784393366424
発売⽇: 2019/05/27
サイズ: 20cm/252p

〈性〉なる家族 [著]信田さよ子

 本稿には性被害に関連する箇所が多く、読まれる方にはご注意いただきたい。
 さて著者は子どもの虐待、アルコール依存症、家庭内暴力などの加害者、被害者にカウンセリングをしてきた臨床心理士だ。
 この本では、多くの「現場」を見てきたからこそ言える「家族」の闇、支配という名の暴力がどのように人を蝕んでいるかが描かれ、冷静な筆致にして内実は熱い怒りに突き動かされているのがよくわかる。
 2年前、刑法が改正され、強姦罪が強制性交罪となった。厳罰化、非親告罪化(被害者の告訴がなくても罪に問える)が柱で、家庭内性虐待の処罰も新設。
 にもかかわらず、改正以後も数々の告訴がはねのけられている。そもそも著者が書く通り「性暴力」「性虐待」と言うべき行為が「痴漢」、「いたずら」、「乱暴」と浅い言葉で言い換えられる時点で、社会が被害を軽視している。
 特に本書では、タイトルにもあるように家族内の問題が取り上げられる。「支配」という暴力が最も力の弱い幼女へと下降していく様子、被害者である子どもがそれを正確には認識出来ず、また幼さと恐怖によって言葉で訴えることも出来ない構造は本当に残酷だ。
 こうした家庭内性暴力が、時に「溺愛」などと言い換えられて横行する姿など、胸がしめつけられる。
 家庭内暴力も性暴力も根源には「支配」への不均衡であられもない欲望がある。そして、他人を思い通りにすることへの飽くなき嗜好が力と結びつく点では、末端に家庭があり、上へたどれば国家がある。
 著者は「(抵抗や反論を)奪っている側にその意識がないことが、支配の現実を見えにくくする」と書いているが、家庭内性暴力ではことに、指摘されざる被害が今この時にも起きているのだろう。こうしたケースに対して「時効延期、もしくは撤廃」をしない限り、被害者は訴える機会を奪われたままになる。
    ◇
 のぶた・さよこ 1946年生まれ。臨床心理士、原宿カウンセリングセンター所長。著書に『DVと虐待』など。