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「恐竜まみれ」書評 化石愛に満ちた研究の醍醐味

評者: 黒沢大陸 / 朝⽇新聞掲載:2019年08月17日
恐竜まみれ 発掘現場は今日も命がけ 著者:小林快次 出版社:新潮社 ジャンル:地球科学・気象

ISBN: 9784103525912
発売⽇: 2019/06/26
サイズ: 20cm/238p

恐竜まみれ 発掘現場は今日も命がけ [著]小林快次

 もはや恐竜は夏の季語のようだ。毎夏、どこかで恐竜展が開かれる。国立科学博物館で開催中の恐竜博では、子どもたちが丸い目で化石を見上げ、展示ケースにはりついている。弊社も主催者だから宣伝じみて恐縮です。盛況御礼。
 アンモナイトに夢中だった少年が長じて「ファルコン・アイ」の異名を持つ恐竜学者となった著者。「ハヤブサの眼」で次々と化石を見つける。「必ずここに恐竜化石はある」と探し、見つからなくても、残された場所に化石が埋まっている確率が上がると考えるから「次の1歩で見つかるかもしれないと、ワクワク」。時に「スゲー! カッケー!」の化石コレクターのモードになる。
 灰色熊との遭遇や突然の嵐。偽の化石や盗掘者。発掘ツアーのアマチュアが見つけた恐竜営巣地、多額の予算をかけて発見できない不安。本書は現場の苦労や驚きを軽快に語っていく。
 研究に対する思いが熱い。期待外れの現場でもできるだけデータを取ることの繰り返しが世界的な発見につながる醍醐味を力説。重箱の隅をつつくような日本の研究姿勢では学問の先頭に立てず、仮説の検証役にとどまると危惧する。
 発見した化石の国外への持ち出しに反対し、化石売買の悪影響を強調する。愛好家のお父さんが亡くなった瞬間、「すべてが『ゴミ』に変わる」化石を案じ、アマチュアと研究者の連携が必要だと指摘。化石愛に満ちている。
 ノーベル賞でなくとも、ネイチャー誌に論文が載らなくても、自分が大発見だと思えば大発見。科学にとりつかれた著者は「サイエンス中毒」と自称。父親から「自己満足の研究になっていないか。常に人のためになっているかを考えろ」と問われ、恐竜研究の意味を自問し続ける。
 「成長戦略」とは縁遠い研究でも、子どもたちを夢中にするサイエンスが未来に役立たぬはずはない。本書を読んで痛感した。
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 こばやし・よしつぐ 1971年生まれ。北海道大総合博物館教授、同館副館長。著書に『恐竜は滅んでいない』など。