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「クモの奇妙な世界」「クモのイト」書評 賢くて複雑で孤高の変な生き物

評者: 斎藤美奈子 / 朝⽇新聞掲載:2019年10月05日
クモの奇妙な世界 その姿・行動・能力のすべて 著者:馬場 友希 出版社:家の光協会 ジャンル:動物学

ISBN: 9784259547691
発売⽇: 2019/08/28
サイズ: 19cm/351p

クモのイト 著者:中田 兼介 出版社:ミシマ社 ジャンル:動物学

ISBN: 9784909394262
発売⽇: 2019/09/26
サイズ: 19cm/196p

クモの奇妙な世界 その姿・行動・能力のすべて [著]馬場友希/クモのイト 中田兼介

 「へんないきもの」や「ざんねんないきもの」が巷(ちまた)じゃ大人気。だが変で残念っていう点で、これに勝る生き物はないんじゃないかな。クモである。
 糸を吐いて網を張り、獲物を待ち構える。相当変わった暮らし方であるうえにクモの巣だらけの空き家を連想するのか、気持ち悪いの怖いのと嫌われる。しかーし、知れば知るほど興味深いクモの世界。
 『クモの奇妙な世界』はクモ嫌いのあなたのためのいわばスーパー・スパイダー・ガイドである。
 現在のところ世界で知られているクモは約4万8千種。うち網を張るクモは約半数の2万種強だ。網は住居と罠をかねた構造物だけど、円網、立体網、獲物がふれると振動する受信網など、形状や用途は多種多様。しかも多くのクモは性質の異なる何種類(4~7種類)もの糸を巧みに使い分ける。〈網が違えば生き方も違う〉のだ。
 網を張らない半数のクモはじゃあどうやって暮らしているかというと、地中に穴を掘って入口に糸で綴った扉を設けたり(ハラフシグモの仲間など)、地表をぴょんぴょん跳ねて獲物を捕らえたり(ハエトリグモの仲間など)。糸を空中に放って空を飛ぶクモあり、アメンボのように水上を移動するクモあり。クモよ、おぬしは忍者か、だ。
 クモ愛好家にも元クモ嫌いは多いらしい。それがひとたびクモの魅力にとりつかれると、たちまち虜になる。同じくビギナーのために書かれた『クモのイト』の著者も、もとはアリの研究者だった。〈クモの魅力は、その賢さと複雑さにあります〉というこの本には文科系の話題も満載だ。
 日本では1700種近くのクモが知られるが、あと400種は未知のクモがいるはずという。新種発見も夢ではない。そうそう、クモのもうひとつの魅力は基本的に群れない孤高の生き物であることだ。ハロウィンのクモだけがクモではない。ぜひ本物をどうぞ。
    ◇
 ばば・ゆうき 1979年生まれ。農研機構主任研究員▽なかた・けんすけ 1967年生まれ。京都女子大教授。