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『動物たちが教えてくれた「良い生き物」になる方法』書評 生命への愛と輝きに満ちた世界

評者: 諸田玲子 / 朝⽇新聞掲載:2019年11月30日
動物たちが教えてくれた「良い生き物」になる方法 著者:サイ・モンゴメリー 出版社:河出書房新社 ジャンル:ノンフィクション・ルポルタージュ

ISBN: 9784309253992
発売⽇: 2019/10/15
サイズ: 20cm/190p

動物たちが教えてくれた「良い生き物」になる方法 [著]サイ・モンゴメリー

 幼い頃、お祭りで買ったひよこを可愛がっていた。鶏冠(とさか)が生え、コケコッコーと鳴いても、愛情はゆるがなかった。鳥の顔は怖い、鶏なんて嫌いと思っていたのに、私のコッコちゃんは特別だった。
 犬は何匹も見送った。そのたびに悲嘆に暮れた。物も喉を通らない。心配した両親から「もう飼ってはいけません」と厳命されるのに、また拾ってきては同じことをくり返す。愛も死も私は生き物から教わった。
 だからというのもおこがましいが、著者に自分を投影できる。もちろん著名なナチュラリストとして世界を駆けまわり、数々の本を著し、生き物すべてに惜しみない愛情をそそぐ著者の勇気と行動力と愛の深さには遥かに及ばないけれど。
 本書は各章ごとに様々な生き物が登場する。飼い犬に飼い豚(!)に蜘蛛やミズダコまで。各々が名前を与えられ、愛しまれ、健気にも著者の愛に答えようと(たぶん)する。「感情は人間だけのものではない。動物には感情などないと決めつけるのは、動物の感情を誤って読み解くよりもずっと悪い」。命は皆、同等なのだ。人間だけが横暴な支配者であってよいはずがない。「一匹のタコとの友情が――それが彼女にとって何を意味するにせよ――こう教えてくれた。わたしたちの世界は、そして周囲のいくつもの世界は、だれにも想像できないすばらしい色合いの輝きに満ちており、わたしたちが考えているよりも、はるかに活力にあふれ、神聖なのだと」
 生き物は死ぬ。愛犬や愛豚の死にうちのめされながらも著者は「この世界は、思っていた以上に生命に満ち、わたしたちが自分の生を愛するのと同じように、小さな生き物たちも自分の生を愛しているのだ」と記す。そして「良い生き物になるための道のりには、学ぶべきことがまだまだあるのだ」と教えてくれる。生命への愛あふれる本書が全米でベストセラーになったのは当然だろう。
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 Sy Montgomery 1958年生まれ。米の作家。著書は『愛しのオクトパス』『彼女たちの類人猿』など。