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「7つの階級」書評 日本にも立ち込める醜悪な空気

評者: 本田由紀 / 朝⽇新聞掲載:2020年02月08日
7つの階級 英国階級調査報告 著者:マイク・サヴィジ 出版社:東洋経済新報社 ジャンル:社会・時事

ISBN: 9784492223857
発売⽇: 2019/11/29
サイズ: 20cm/384,24p

7つの階級 英国階級調査報告 [著]マイク・サヴィジ

 「階級」の主な分類基準とされてきたのは職業区分であった。しかし本書の著者らは、現代の英国における階級構造を理解するためには、職業や経済資本だけでなく、フランスの社会学者ブルデューが提唱した文化資本(趣味嗜好)および社会関係資本(社会的ネットワークの範囲と性質)に着目する必要を主張する。
 その観点から著者らは、2011年にBBCが実施した英国階級調査と、その回答者の偏りを補正するための全国サンプル調査に、「潜在クラス分析」という統計手法を適用した。
 見いだされたのは、すべての資本を潤沢に所有する「エリート」と、逆にすべてが乏しい「プレカリアート」という両極の間に、各資本の多寡の組み合わせから成る、「確立した中流階級」「技術系中流階級」「新富裕労働者」「伝統的労働者階級」「新興サービス労働者」が存在するということだ。
 この構造の中で人々は、自分がもつ諸資本を総動員したり相互に転換したりしながら頂上を目指す競争に巻き込まれている。それは出発地点が頂上に近い者ほど有利な不公平な競争だが、いわゆる「能力主義」の建前により、不平等は温存されている。オックスフォードとケンブリッジをトップとする大学間の明確な格差が、そこには深く関わっている。
 加えて本書は、表面的には階級意識の存在を否定しつつも、本音では自分よりも「低い」階級を見下す「新しいスノビズム」を、インタビュー調査から生々しく抉(えぐ)り出す。
 「階級」というより「階層」では?とか、社会関係資本の把握の仕方は適切か、とか、中間の5階級が曖昧(あいまい)に見えるとか、分析結果にはやや疑問も残る。
 だが、自国の醜悪さをこれでもかと描こうとする努力には敬服する。日本の階級やスノビズムは英国とは異なるだろう。しかし同じ醜悪さの空気が、この国土にも立ち込めている。
    ◇
Mike Savage ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス教授。共著に『文化・階級・卓越化』。