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「旅の効用」書評 人は旅で本当に変わるのか

評者: 出口治明 / 朝⽇新聞掲載:2020年02月15日
旅の効用 人はなぜ移動するのか 著者:ペール・アンデション 出版社:草思社 ジャンル:紀行・旅行記

ISBN: 9784794224361
発売⽇: 2020/01/24
サイズ: 20cm/351p

旅の効用 人はなぜ移動するのか [著]ペール・アンデション

 たくさんの人に会い、たくさん本を読み、多くの旅を重ねる。人間は「人・本・旅」でしか賢くなれない動物だと僕は思っている。ホモ・モビリタス(移動するヒト)という言葉があるが1万3千年前まで私たちは遊牧民だった。だから「変化がなければ心は消耗する」のだ。旅好きの僕にはこの感覚がとてもよくわかる。空の旅は感覚を歪めると考える筆者は、列車、ヒッチハイク、ラクダなどを選ぶ。友人ペトラの住むギリシャのナクソス島とムンバイには何度でも戻りたい。リピーターの愉悦。あるある。もちろん一度きりの邂逅(かいこう)も捨てがたい。北京の小路でお茶を注いでくれた老人の存在感。世界には二つの方向が存在するという。「自分の中に引きこもろうとする傾向」と「開放的になろうとする傾向」。人は旅で本当に変わるのか。それは本書を読んでください。巻末には読めば放浪したくなる旅行記22点が。旅好きの必読書ではないか。