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『大学教授が、「研究だけ」していると思ったら、大間違いだ!』書評 学生を発信型に変身させ社会へ

評者: 黒沢大陸 / 朝⽇新聞掲載:2020年07月11日
大学教授が、「研究だけ」していると思ったら、大間違いだ! 「不人気学科教授」奮闘記 著者:斎藤恭一 出版社:イースト・プレス ジャンル:教育・学習参考書

ISBN: 9784781618784
発売⽇: 2020/05/07
サイズ: 19cm/253p

大学教授が、「研究だけ」していると思ったら、大間違いだ! 「不人気学科教授」奮闘記 [著]斎藤恭一

 高校時代に著者に会っていたら人生が変わっていたかも知れない。学生を集め、育て、一人前の社会人として送り出したい。そんな思いがにじんでくる。
 研究費の獲得、大学運営にかかわる役職や会議。教授の仕事は研究以外も盛りだくさん。高校巡りもする。学生が集まりにくい工学部の「不人気学科」への勧誘ではなく、大学という存在のPRだ。ときに高校生にからかわれながらも、大学で学んで身につけるものは何かを伝えていく。ネットで得られる受験情報とは別ものだ。生身の教授の一言が人生を決めるきっかけになるかも知れない。
 受験科目を絞るより視野を広げることが先。「理系こそ国語と英語、文系こそ数学と理科」、いろんな知識が必要になるから偏った勉強はせずに、全科目に興味を持つように勧める。基礎学力がないまま無理して現役合格すると、大学で成績が低迷する。苦手科目も克服できると、自ら経験した浪人の効用も説く。
 講義で集中力を途切れさせまいと工夫を凝らす。「研究を通して学生の能力を伸ばし高める」ことが大学での研究の第一優先と言い切る。新入生合宿、学外講師の授業や工場見学でのマナー、社会人になる基礎をしつける。講義でのダジャレは空回り、製鉄所見学に雪駄(せった)履きで現れた学生にすごむ。暑苦しいばかりの学生たちとの格闘だ。
 この熱血指導はありがたい。大学から若者を迎える側としてそう思う。研究を通して学べることは二つという。高校までとは違って、「解答のない問題をもらえて、それに挑戦できること」、受信型から発信型人間への変身。そう、それを期待したいのです。
 受験エリートが就職後も開花するとは限らない。大学で受けたはずの訓練で、型通りの成功体験から脱皮できたか否かが、その分かれ目と思えてくる。大学合格は最終目標ではない。教授の奮闘から高校と大学の意義も考えさせられた。
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さいとう・きょういち 1953年生まれ。千葉大工学部名誉教授。著書『道具としての微分方程式 偏微分編』など。