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「ぼくの宝ばこ」書評 好きなものはアイデンティティーそのもの

評者: 武田砂鉄 / 朝⽇新聞掲載:2020年07月18日
ぼくの宝ばこ 著者:少年アヤ 出版社:講談社 ジャンル:エッセイ

ISBN: 9784065192337
発売⽇: 2020/05/13
サイズ: 19cm/182p

ぼくの宝ばこ [著]少年アヤ

 この著者のエッセー集が刊行されるたび、ゆっくり読みふける。記憶をとても大切にし、そして、育てているからだ。時にしんどい日々を静かに更新するため、自分と懸命に寄り添う。
 「『おかま』として、ピエロとして振る舞う日々」を思い出す。「ただしい男の子たちの真っ当さが、より胸に刺さるようになっていった」。雑誌のふろくを、セーラームーンのシールを、レイアースの海ちゃんの人形をそばに置く。「ぼくの好きなものは、ぼくのアイデンティティーそのもの」なのだ。
 かわいいもの、うつくしいものと一緒にいる。存在まるごと、ないがしろにされる出来事が続いても、その宝ものは裏切らない。「神さまでさえ立ち入れない聖域を、こころにたくさん持っているなんて、ぼくもなかなか勇敢じゃないか」
 熟成された記憶に、ものと感情が混ざり合う。大切なものを大切と言い切れる優しさって、こんなに、たくましくもあるのだ。