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「コスモス いくつもの世界」書評 宇宙の生命史をたどる時空の旅

評者: 須藤靖 / 朝⽇新聞掲載:2020年08月01日
コスモスいくつもの世界 (NATIONAL GEOGRAPHIC) 著者:アン・ドルーヤン 出版社:日経ナショナルジオグラフィック社 ジャンル:天文・宇宙科学

ISBN: 9784863134836
発売⽇: 2020/05/16
サイズ: 21cm/406p

コスモス いくつもの世界 [著]アン・ドルーヤン

 世界的な惑星科学者、故カール・セーガンが1980年に発表した「COSMOS」(以下、前作)は、テレビ番組と書籍を合わせて世界で数億人もの人々を魅了した。当時大学生だった私も、毎晩食い入るようにテレビを見て強烈な刺激を受けたことを思い出す。
 本書はその続編となる全13回のテレビシリーズの書籍版だ。著者はセーガンの3番めの妻で、前作の共同制作以来、共に多くの一般向け科学書を世に送り出している。今回は番組の製作総指揮を務めた。
 前作は、我々の祖先が星空を眺めることで天文学から科学を築き上げてきた歴史を追体験しつつ、太陽系内惑星の姿そして地球文明の未来を鮮やかに論じてみせた。セーガンの語り口と文学性は、今読み返しても全く色あせることのない完成度の高さを誇っている。
 とはいえ、前作以降の40年間で天文学は飛躍的な進歩を遂げた。特に、この太陽系以外の惑星が発見されただけでなく、太陽のような恒星のほとんどが惑星系を宿している事実までもが明らかとなった。
 本書は、この世界観の変革に基づき、宇宙の歴史と地球上の生物史を解明した科学者の足跡をたどることで、宇宙における生命の普遍性と多様性、さらには地球外知的文明の必然性に至るまで、平易な言葉で語りかける。それはこの地球文明の将来の姿を予測することに他ならない。
 現代文明の発展を支える科学は、地球を滅亡させかねない両刃の剣でもある。気候温暖化を発見した真鍋淑郎(しゅくろう)博士の業績を紹介しつつ、「未来はまだ選べる。ならばともに選択しようではないか」と訴える箇所は、セーガンの提唱した「核の冬」を思い起こさせる。
 探査機カッシーニによる土星の環(わ)と地球。白亜紀のスズメバチの化石。南アフリカのブロンボス洞窟にある7万年前の最古の美術作品。これらに代表されるカラー写真を眺めるだけでも時空の旅を満喫できよう。
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 Ann Druyan 今年放送のTV番組「コスモス:いくつもの世界」製作。1980年の作品ではエミー賞受賞。