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「政治改革再考」書評 「第三の憲法体制」不整合な実践

評者: 宇野重規 / 朝⽇新聞掲載:2020年08月22日
政治改革再考 変貌を遂げた国家の軌跡 (新潮選書) 著者:待鳥聡史 出版社:新潮社 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784106038549
発売⽇: 2020/05/27
サイズ: 20cm/314,5p

政治改革再考 変貌を遂げた国家の軌跡 [著]待鳥聡史

 鋭い論争の書である。しかし、1990年代以降の政治改革にかけた歳月を、単に「失われた三〇年」として全否定するのでないならば、考えるべき多くの問題を提起する本書を無視することはできないはずだ。
 争点の一つは、全体としての政治改革の評価である。この時期の日本は、選挙制度改革、行政改革、日本銀行・大蔵省改革、司法制度改革、地方分権改革と、公共部門と呼ばれる領域の大部分で、立て続けに改革が行われた。本書によれば、これらは決してバラバラのものではなく、一貫する「アイディア」に基づく連動した改革であった。歴史においても「極めて高い自己改革能力を発揮した」この改革は、明治維新、戦後改革に続く「第三の憲法体制」を作り出したとさえ著者はいう。
 もちろんこの30年間の改革は、期待通りの結果をもたらしていない。一つには、諸改革には共通した理念があったが、それぞれの領域の改革は必ずしも整合的ではなかった。これを著者は「マルチレヴェルミックス」の手法で分析するが、たしかに振り返って見ると、集権的な改革と分権的な改革が併存し、両者の関係はつきつめて考えられていなかった。それぞれの改革においても、現実への適合のために変質した部分があった。何より、肝心の選挙制度改革にしても、参議院と地方議会の改革が遅れるなど、未完である。
 もう一つの争点は、改革を主導した理念を「近代主義右派」としている点にある。それは自律的な諸個人を積極的な意思決定の主体とする点で近代主義的であるが、戦後の近代主義を主導した左派と違い、マルクス主義ではなくあくまで自由主義を志向する。戦前の河合栄治郎から、戦後の高坂正堯までの系譜をたどり、これを90年代以降の政治改革に結びつける見通しは壮大である。
 反論は著者も希望するところだろう。議論の活性化に期待したい。
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 まちどり・さとし 1971年生まれ。京都大教授。専門は比較政治論。著書『政党システムと政党組織』など。