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「民家を知る旅」書評 生活に根ざした力強さと美しさ

評者: 長谷川逸子 / 朝⽇新聞掲載:2020年08月29日
民家を知る旅 日本の民家見どころ案内 著者:日本民俗建築学会 出版社:彰国社 ジャンル:歴史・地理・民俗

ISBN: 9784395321513
発売⽇: 2020/05/29
サイズ: 23cm/271p

民家を知る旅 日本の民家見どころ案内 [編]一般社団法人日本民俗建築学会

 この本は、民家の構造や職人の技術といった建築的に専門性の高い内容と、生業や行事など暮らしに関する内容と両方にまたがっていて、建築関係の人にもそうでない人にも楽しめる。最初にそれぞれの「見どころ」が短くまとめられているのもいい。各地の民家が約100例紹介され、ガイドブックとしてはやや大きいが、民家を見歩く人が持っていく価値はある。
 「刊行にあたって」に、こう記されている。「民家は、それぞれの地域の風土に培われた暮らしの産物である。そこで暮らす人々が多様な外観をもつ民家の設計者といえる。厳しい自然が力強さを、人々のやさしい心が繊細な美しさをつくり出した。民家はより快適な暮らしを求めて進化する、生命をもった存在のようである」。こうした民家の魅力を追って各地を訪ねる人が、深い理解を得るために刊行したという。
 私が大学卒業後に勤めた設計事務所は、大規模な公共建築の設計が多かった。5年経った頃、もっと生活が身近にある小規模建築を設計したいと考え、私の師となる東京工業大学・篠原一男先生の研究室へ移った。先生の住宅論の中の「民家はきのこ」という言葉に惹かれ、1年かけて東北から沖縄までを旅し、その土地の気象・素材・職人、そして生活に根ざしたものが〝民家〟であることを体感した。特に、群馬や山梨などで屋根の棟に草花の咲く民家が忘れられない。
 本書でも紹介されている、馬屋のある南部曲屋、京都の伊根浦にある舟屋は生活空間と生産活動が一体となった住居で、風景は力強かった。
 民家について話していると、「資料はどこにあるのか」と聞かれることがよくある。私が民家を見学する際に持ち歩いた、鈴木充著『民家』や、亘理俊次著『芝棟 屋根の花園を訪ねて』などの古い本を紹介してきたが、この本もぜひ広めたいと思う。
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 一般社団法人日本民俗建築学会 1950年に民俗建築会として創立。今年70周年を迎え、本書を記念出版した。学会誌「民俗建築」を発行している。