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「ネクスト・シェア」 GAFA時代に問う革新的伝統 朝日新聞書評から

評者: 柄谷行人 / 朝⽇新聞掲載:2020年09月12日
ネクスト・シェア ポスト資本主義を生み出す「協同」プラットフォーム 著者:ネイサン・シュナイダー 出版社:東洋経済新報社 ジャンル:社会思想・政治思想

ISBN: 9784492212424
発売⽇: 2020/07/31
サイズ: 20cm/358,27p

ネクスト・シェア ポスト資本主義を生み出す「協同」プラットフォーム [著]ネイサン・シュナイダー

 本書の原題は、直訳すると、「次代の経済をかたちづくるラディカルな伝統」であるが、それは協同組合を意味している。つまり、本書は、協同組合というラディカルな企てがいかに始まったかを論じるとともに、それが今後、いかに「次代の経済」を形成していくかを見るものである。
 協同組合が確立されたのは、一九世紀半ば、イギリスのオーウェンと、その弟子のホリヨークによってであり、後者が作った制度(ロッチデール原則)は今も活用されている。しかし、協同組合の「伝統」はもっと古いし、また世界各地にある。本書では、代表的な例として、聖書「使徒行伝」に見られる、信徒たちの共同体があげられている。それはまた、修道院や中世の托鉢修道会、さらに、都市の職人ギルドにも見出される。大学も学者らの自治ギルドから生まれた。ちなみに、近代でも、AP通信は新聞のアソシエーション、つまり、協同組合としてはじまったのである。
 本書では、ロッチデール以後の協同組合が、スペイン、ケニアなどで継承され、独自の発展を遂げていることが書かれている。しかし、その主題はむしろ、現代の資本主義経済の中で、協同組合がどのように存続しているか、また、いかにして存続しうるかにある。つまり本書は、旧来のような製造業ではなく、GAFA(グーグル、アップルなど)に代表される、いわゆる「プラットフォーム」企業が支配的となった現状において、協同組合の可能性を問いなおそうとする。
 情報産業の発展、インターネットの普及とともに、シェアリング・エコノミー(共有型経済)が広がった。たとえば、カー・シェアリングを唱えるウーバーは、それまでのタクシー業を追いつめた。しかし、これはシェア(共有)をもたらすものではなく、新たな資本蓄積の手段でしかないことがわかった。同様のことが、貨幣にとってかわるといわれたビットコインについてもいえる。
 そこで、著者はあらためて、協同組合という「ラディカルな伝統」に戻って考える。本書には、旧来の協同組合を受け継ぎ発展させようとしている人たちだけでなく、それを新たな形で実行しようとする人たちについての報告もある。その中には、協同組合を擁護する発言をくりかえしてきたフランシスコ教皇がいる。彼はまた、「偽の協同組合を阻止しましょう」と語った。中でも印象深いのは、エクアドルで、FLOKソサエティという名のプロジェクトをおこなっている、ベルギー生まれのミシェル・バウエンスである。自由に流通する情報と協同組合の結合は、中世のコモンズ(共有地)を、先端の技術にもとづいて再現しようとしている、といってもよい。
    ◇
 Nathan Schneider 1984年生まれ。ジャーナリスト、米コロラド大ボルダー校助教授。経済、技術、宗教について執筆し、ニューヨーク・タイムズ、ニューヨーカー、ニュー・リパブリックなどに寄稿。