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「エリートたちの反撃」書評 ドイツ論壇を揺るがした論争

評者: 生井英考 / 朝⽇新聞掲載:2020年10月03日
エリートたちの反撃 ドイツ新右翼の誕生と再生 著者:フォルカー・ヴァイス 出版社:新泉社 ジャンル:歴史・地理・民俗

ISBN: 9784787720139
発売⽇: 2020/07/18
サイズ: 19cm/293p

エリートたちの反撃 ドイツ新右翼の誕生と再生 [著]フォルカー・ヴァイス

 2010年、ドイツで論壇を揺るがす「ザラツィン論争」が起こった。
 中道左派の社会民主党(SPD)の財政専門家で、独連銀の理事になってまもないティロ・ザラツィンが、ドイツに帰化したトルコ系などを「福祉に依存するクズ」と呼び捨て、排外主義と人種差別むきだしの著書『ドイツは自滅する』(未邦訳)をベストセラーにしたのである。本書はこの論争を吟味し、右派言論の歴史的系譜を探る社会思想史。日本では続編にあたる『ドイツの新右翼』が先に訳されたが、シュペングラー『西洋の没落』以来の「没落文学」を概観し、日本の読者にはむしろわかりやすい順番だろう。
 この種の本はえてして保守主義とナショナリズム、排外主義、人種主義などが混然としがちだが、記述と言葉遣いも慎重かつ平明。日本でヘイトスピーチが現象化したのと同時期のこの論争が、単にドイツの特殊個別的な事情ゆえのものでないことがよくわかる。