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「職場の科学」書評 リモートが進める円滑なコラボ

評者: 坂井豊貴 / 朝⽇新聞掲載:2020年10月10日
職場の科学 日本マイクロソフト働き方改革推進チーム×業務改善士が読み解く「成果が上がる働き方」 著者:沢渡あまね 出版社:文藝春秋 ジャンル:経営・ビジネス

ISBN: 9784163912370
発売⽇: 2020/08/26
サイズ: 19cm/205p

職場の科学 日本マイクロソフト働き方改革推進チーム×業務改善士が読み解く「成果が上がる働き方」 [著]沢渡あまね

 日本マイクロソフトは、コロナ禍のもと、本社オフィスへの出社率を1・7%まで下げた。もともと同社にはリモートワークの制度があり、その準備は整っていた。社員にリモートワークを認めるのは福利厚生のためではなく、生産性を高めるためである。かねて同社は、仕事の環境の最適化に注力してきた。本書にはそうして得られた知見が詰まっている。
 重視するのは円滑なコラボレーションができること。部門の垣根を越えたプロジェクトほど、高い付加価値が出やすいからだ。だから同社では、社内で進行中のプロジェクトや、開発中のテクノロジーなどは、原則として誰もがアクセスできる。連絡もメールではなく、より気軽なチャットを多用する。チャットの流れによってはその場でリモート会議に移行する。それができるシステムを用意し、文化を醸成する。
 また著者は、リモート会議は外部人材の活用に有効だと説く。実際リモート会議の活用によって、同社は人材ネットワークを増幅した。ただしそれ単体で生産性が上がるわけではない。重要なのは、仕組みを「点ではなく、面で変えていく」こと。いかに社内外で広く交流できるようになっても、現場の人間に権限がなければ意思決定は遅く、機動的な連携はできない。権限の委譲をも含む全体最適化の実施が大切なのだ。
 この本に書かれていることを「マイクロソフトだからできること」と片付けない方がよいだろう。同社は優れたノウハウをもっているというよりも、生産性の向上に、ひたすら真剣なだけなのだ。だから旧弊にとらわれないし、データを重視するし、変化を厭(いと)わない。つまるところ本書が教えるのは、仕事の環境設定が、経営上の重要な操作変数になった時代の訪れだ。社員に優しい会社を目指そうという話ではない。仕事の環境設定に真剣であらねば市場を勝ち抜けないという、至極厳しい話である。
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 さわたり・あまね 作家。企業の業務改善なども手がける。著書に『仕事ごっこ』『職場の問題地図』など。