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「テレビジョン」書評 ネット社会に重なる「古い未来」

評者: 生井英考 / 朝⽇新聞掲載:2020年10月17日
テレビジョン テクノロジーと文化の形成 著者:レイモンド・ウィリアムズ 出版社:ミネルヴァ書房 ジャンル:産業

ISBN: 9784623088485
発売⽇: 2020/08/04
サイズ: 20cm/268,8p

テレビジョン テクノロジーと文化の形成 [著]レイモンド・ウィリアムズ

 若者のテレビ離れといわれる現代でもなお、私たちは「テレビ的な世界」を生きている。
 日常生活に寄り添い、手が空けばほとんど無意識に電源を入れ、世間の噂(うわさ)も友だちや家族より早く教えてくれて、いつのまにか聞きかじりを信じこんでいる。
 その媒体がテレビ受像機からスマホに替わっただけで、私たちはむしろ以前にもまして「テレビ的」な世界を生きているのではないだろうか。
 本書はそんな世界のしくみを解き明かそうと、かの〝カルチュラル・スタディーズの祖〟が取り組んだ仕事である。むろん新著ではない。初版は1974年。ウィリアムズ没後の90年、子息が注釈をつけて出版された第二版が本書の底本だ。
 それゆえ中身は古い。なにしろインターネットなど一般には単なる夢想、テレビこそが日常の前面に君臨した時代の論考である。技術の進歩と近代化で地縁や血縁の絆が薄れたとする「プライベート化」の概念も、ここではスマホによる個人化ではなく「核家族」を意味していたりする。
 では、なぜいま本書が読まれてしかるべきなのか。それは本書のテレビ論が、ほぼそのまま現代のネット社会にも重なるからだ。
 たとえば本書はテレビを過去の想像力の帰着点と見ている。連続ドラマがいかに19世紀初めごろの大衆小説と類縁的かという議論など、ネットとライトノベルを連想させよう。いわば私たちは〝新しくて古い未来〟を生きているのだ。
 他方、本書はマクルーハンのメディア論には否定的で、ラジオやテレビを含むメディア全般が地球をひとつにする「グローバル・ヴィレッジ」論に疑いの目を向ける。同じ英語圏のニュース番組でも英米で違いがあるように、テクノロジーと社会の関係は一元的ではないし、すべきでもないと。米大統領選の目を覆いたくなるテレビ討論を見ながら、しばし考えこむのは評者だけではないだろう。
    ◇
 Raymond Williams 1921~88。作家、批評家。小説『辺境』、評論に『文化と社会』など。