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「和室学」書評 消えゆく危機感から魅力を研究

評者: 長谷川逸子 / 朝⽇新聞掲載:2020年12月19日
和室学 世界で日本にしかない空間 (住総研住まい読本) 著者:松村秀一、服部岑生 出版社:平凡社 ジャンル:歴史・地理・民俗

ISBN: 9784582544688
発売⽇: 2020/10/26
サイズ: 21cm/369p

和室学 世界で日本にしかない空間 [編]松村秀一、服部岑生

 「このままでは日本の住まいから和室は姿を消してしまうのでは」という危機感から、建築家らが和室の「世界遺産的価値」の研究を進め、起源と背景、どのように変容したか、茶室の影響、畳の歴史など、その多様な魅力と特徴をまとめたのが本書である。
 住居は生活の本質を含む文化を形成している。和室は我が国独自のもので、生活を営む場であり、瞑想(めいそう)の場、夢想の場、心を癒やす場の機能もある。多くの場合、床の間が設けられ、美術工芸品などが建築と一体となって生活の中に調和するかたちで存在していた。欄間や木工細工、畳や漆喰(しっくい)など、自然の素材を扱う仕事人がそれぞれの地域にいて、美しさを競ってきた。和風建築は木造で、傾斜屋根を柱と梁(はり)のフレームで支えていて、だいたい開放的で、縁側を通じて庭や周辺の山々と繋(つな)がっている。襖(ふすま)や障子の可動間仕切りの操作で、冠婚葬祭などコモンズの集まりにも使われる多目的広間にもなる。
 多くの分野で洋風化が進んだ昭和は大きな変革期にあたる。戦前の木造モダニズム住宅の代表作「聴竹居(ちょうちくきょ)」を設計した藤井厚二は、伝統住居をベースに椅子座と畳に座る床座を併用、部屋を仕切るのではなく「一屋一室」として、通風、採光を確保し近代化に取り組んだ。西山夘三は「食寝分離論」を提唱、公共住宅のDKの間取りのルーツとなり、今日まで続く原理を打ち立てた。
 私は住宅の研究を東工大で始める際、各地の民家を見歩く旅をした。菊竹清訓の「スカイハウス」も篠原一男の「白の家」も、民家の先にあるものとして輝かしく見えた。民家はそれぞれの風土に養われた生活の産物で、それは持続する生命を持つ存在だった。民家は私の建築設計の原点にある。80年代に独立して集合住宅を設計する頃になると、大阪では和室はもういらないと言われ、生活が洋風になっていくことに寂しさを覚えたことを思い出す。
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まつむら・しゅういち 1957年生まれ。東大特任教授▽はっとり・みねき 1941年生まれ。千葉大名誉教授。