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「神さまの貨物」書評 絶望の中で知る温かな命の鼓動

評者: 押切もえ / 朝⽇新聞掲載:2020年12月19日
神さまの貨物 著者:ジャン=クロード・グランベール 出版社:ポプラ社 ジャンル:小説

ISBN: 9784591166635
発売⽇: 2020/10/07
サイズ: 19cm/157p

神さまの貨物 [著]ジャン=クロード・グランベール

 童話を思わせる装丁と書き出しで始まる物語は、戦争で起きた残虐さと、絶望の中でも光となる大切なものを教えてくれた。
 世界大戦のさ中、占領下の森に暮らす貧しい木こりの夫婦。夫は厳しい寒さと飢えの中、強制労働をさせられる日々だった。そんな中、自分に子どもを授けてほしいと祈り続けるおかみさんの目の前の雪の上に、小さな子供が落とされる。ユダヤ人を収容所へ移送する列車に乗せられた父親が、我が子を生き延びさせようと窓から落とした幼子だった。
 明日の見えない中でも、子どもが自分のもとへやってきてくれたことを喜び、命懸けで育てようとするおかみさんの愛情が胸に染みる。素性の知れない子どもに偏見の眼差(まなざ)しを向ける木こりの夫を、おかみさんは説得する。「人でなしも、人よ。人でなしにも、心臓がある。心がある。おまえさんやわたしと同じように」。当時のような戦争は起こらない現在でも差別の問題は身近にあり、それによって多くの人が深く傷つけられている。おかみさんの言葉に、悲劇は過ぎ去ったのではなく、まだ続いていることを再認識した。
 はじめは反対していた夫も、その子のあたたかな命の鼓動や純粋な心に触れ、幸せな気持ちを知る。わずかな時間、子供のおかげで家の中だけが温かく描かれる様子や、周りからは恐れられながらもおかみさんを救う優しい男の存在が強く心に残った。
 「ただ一つ存在に値するもの」「それは、愛だ」「たとえどんなことがあっても(中略)、その愛があればこそ、人間(ひと)は、生きてゆける」。著者はフランスの劇作家、児童文学作家で、父と祖父が実際に収容所行きの列車に乗っていたという。語りかけるような文章すべてに著者の思いが感じられた。
 絶望の中で自分を強くしてくれるもの。繰り返してはいけない悲劇。そんなことを訴える一冊だ。
    ◇
 Jean-Claude Grumberg 1939年生まれ。仏演劇界で最も権威あるモリエール賞を6度受賞。