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「民主主義の壊れ方」書評 「中年危機」分析し克服の道探る

評者: 宇野重規 / 朝⽇新聞掲載:2021年01月09日
民主主義の壊れ方 クーデタ・大惨事・テクノロジー 著者:デイヴィッド・ランシマン 出版社:白水社 ジャンル:社会思想・政治思想

ISBN: 9784560097922
発売⽇: 2020/10/28
サイズ: 19cm/271,9p

民主主義の壊れ方 クーデタ・大惨事・テクノロジー [著]デイヴィッド・ランシマン

 本書は現代民主主義の置かれた苦境についての著作だが、興味深いことに頻出するのは「中年危機」という言葉である。
 いろいろ問題があることはわかっている。とはいえ、その多くは構造的で、今すぐはどうにもならない。かといって、若き日に戻ることもできない。結果がどうであれ、活力に任せて挑戦する時期は過ぎたのだ。しかし、死を思うにはいささか早く、これからも生きていかねばならない。
 民主主義も同様だ、というのが本書の見立てである。あまり元気が出る結論ではないが、英国ケンブリッジ大学を代表する政治学者による本書は、民主主義の制度疲労や脆さ、そして人々の怒りの分析において冴えを見せる。
 現代のクーデターは、選挙の巧みな操作や政府上層部の権限強化によって、民主主義の名の下に進む。人々は観衆であり、国民投票などが行われても、自分たちで設定したわけでない舞台で賛成か反対か述べるだけである。一方で環境問題などの危機について、人々は陰謀論や終末論にうんざりしている。人類滅亡のリスクがあっても、民主主義は破局の日までリスクとずるずる共存するだろう。
 著者が力を入れるのは、テクノロジーによる代議制民主主義の乗っ取りの分析である。著者はトランプ大統領以上にザッカーバーグを問題視する。フェイスブックの利用者は20億人を超え、まさに世界をネットワーク化しているが、運営する組織は少人数で排他的である。代議制民主主義は意思決定に時間をかけ、人間の衝動を抑えようとするが、ソーシャルネットワークは、人々を中毒化させより衝動的にする。
 とはいえ、本書をよく読んでみると、それでも民主主義が死なないことがわかる。民主主義を補完するテクノロジーの可能性を論じつつ、著者は人類が賢く「中年危機」を乗り越えることを訴える。それしか道はないはずだ。
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David Runciman 1967年生まれ。英ケンブリッジ大政治学教授。ポッドキャストで政治論を毎週配信する論客。