1. HOME
  2. 書評
  3. 「日本赤十字社と皇室」書評 次第に「博愛」から遠ざかった日本の軍事

「日本赤十字社と皇室」書評 次第に「博愛」から遠ざかった日本の軍事

評者: 保阪正康 / 朝⽇新聞掲載:2021年04月10日
日本赤十字社と皇室 博愛か報国か (歴史文化ライブラリー) 著者:小菅信子 出版社:吉川弘文館 ジャンル:歴史・地理・民俗

ISBN: 9784642059053
発売⽇: 2021/01/20
サイズ: 19cm/179p

日本赤十字社と皇室 博愛か報国か [著]小菅信子

 戦場での人道的救援活動はどこまで可能なのか。西南戦争時にできた博愛社(後の日本赤十字社)が、国際社会の赤十字運動とどう連結していったか、本書はその俯瞰(ふかん)図を描いた。
 もともと日清、日露戦争などでは、旧日本軍は捕虜の扱いが丁重であった。ある英国人宣教師は、「日本軍の戦場における勇猛さと紳士的な振る舞いを称賛」したほどだ。西洋に負けない文明国の矜持(きょうじ)を示そうとしたのであろう。
 捕虜の西洋人を「お客様」のようにもてなす半面、敵の捕虜になった日本人には冷淡だった。この二重性の崩壊が第2次世界大戦の捕虜虐待の伏線になったと言える。さらに昭和の軍隊が皇軍に変質していくプロセスにもその因があると分析する。
 日清戦争前には兵士たちに赤十字精神が教育されていた。本書のタイトルにある「皇室」は主に昭憲皇太后の戦病兵への慈愛を指す。日本の軍事は年を追って次第に「博愛」からは遠ざかった。