「文部科学省」書評 現場に丸投げ 外から間接統治
ISBN: 9784121026354
発売⽇: 2021/03/23
サイズ: 18cm/288p
「文部科学省」 [著]青木栄一
今年から予定されていた大学入試改革はなぜ混乱を招いて白紙に戻ったか。
文科省が従来の発想のまま民間委託したのが一因だ。本書はこう解答する。
これまで文科省は、入試の実施を大学や入試センターに丸投げしてきた。無理を頼みやすい相手だから「兵站(へいたん)無視の作戦」が可能だった。だが企業が、同じようにコストを度外視して動くはずはない。営利活動への認識も甘く、公正性や利益相反に疑義が生じた。
「ゆとり教育」失敗の一因も、やはり文科省の「資源制約を考えない悪い癖」だった。現場の教員の対応力に全面的に頼ったのだ。
本書はこのように構造的な問題に注目して文科省の現状を分析する。強調されるのは、文科省の二面性が生んだ「間接統治」だ。
文科省は教育委員会や国立大には強い。政策の実施や責任を委ねれば、これら機関は「出先機関」のように都合よく動いてくれるが、しわ寄せは現場に及ぶ。予算削減で文科省の統制は強まっている。
他方、霞が関で定員最少の文科省は、官邸や他省庁には弱い。だから、業界を掌握した文科省を通じて教育に介入する「間接統治」が生じる。官邸や政治家が実現困難な大学改革を文科省に丸投げすると、財源もないまま実行を委ねられるのは国立大。自助努力で「身を切る改革」を迫られる。こうした「間接統治」では責任の所在が不明確で、誰も責任をとらない。著者の指摘は説得的だ。
文科省だけでなく、広く日本の行政や政治の現状を考えるうえでも示唆的だ。
内に強く外に弱い。人手が足りないばかりか、現場に丸投げしてきたので政策実施の経験も資源も蓄積がない。なじみない相手との交渉に疎く、群がる企業の営利追求に警戒は弱い。こうした描写はどこまで他に適用可能か。マスクやワクチンの手配、給付金支給や振興策の委託など、昨今の感染症対策にも共通点はないか、思索に誘う力作だ。
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あおき・えいいち 1973年生まれ。東北大教授(教育行政学、行政学)。著書に『地方分権と教育行政』など。