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「天体観測に魅せられた人たち」書評 ユーモアたっぷり 驚きの日常

評者: 須藤靖 / 朝⽇新聞掲載:2021年06月05日
天体観測に魅せられた人たち 著者:エミリー・レヴェック 出版社:原書房 ジャンル:天文・宇宙科学

ISBN: 9784562059034
発売⽇: 2021/03/08
サイズ: 20cm/322,2p

「天体観測に魅せられた人たち」 [著]エミリー・レヴェック

 現在、日本天文学会の正会員は2千人強。つまり日本人6万人あたり天文学者はわずか1人しかいない。
 宇宙に関する新発見は新聞やテレビに登場するが、宇宙を研究する天文学者の生態は知らないであろう。
 100人以上の知り合いの研究者から教えてもらった話を元に、天文学者の日常と観測天文学の魅力を伝えてくれるのが本書。
 ハワイのすばる望遠鏡で博士論文のための観測をしていた著者は、突然のアラーム音に驚く。電話越しに「たぶん誤報だから、再起動すれば、たぶん問題は解決する」と助言を受け、数百億円以上もする高価な望遠鏡を破損させる危険を賭して再起動し観測を継続するか、博士論文を1年遅らせるか決断を迫られる。
 冒頭のこのエピソードに代表されるように、天文学そのものというより、天文学者あるあるをユーモアたっぷりに織り交ぜ、天文学にとりつかれてしまった人々の研究する人生を存分に語り尽くしてくれる。
 写真現像用の暗室にコブラがいるのを知りながら、観測写真を失いたくない一心で真っ暗なまま作業を続け、部屋の電気をつけた瞬間、作業台のすぐ隣でとぐろを巻いたコブラを見た。
 観測中に落雷に備えて配電盤を切ってほしいとの電話を受け建物の外に出た瞬間、雷に直撃されヘリコプターで病院に搬送された。
 天文学者は誰でもそんな話が大好きだ。かなり盛られたものもあるが、睡眠・酸素不足のまま夜通し、同僚と雑談しつつ観測データを見守る姿が目に浮かぶ。
 1960年代まで米国のパロマー天文台で研究代表者として観測できるのは男性だけだった。著者のような優れた女性天文学者が数多く活躍できるようになったのはごく最近のことだ。
 時間と労力と資金を費やしてまでなぜはるか遠くの宇宙を研究するのか。本書を読めば、誰も見たことのない宇宙の姿に胸躍らせる天文学者の気持ちにちょっぴり共感できるだろう。
    ◇
Emily Levesque 1984年生まれ。米ワシントン大教授。多くの賞を受けた気鋭の天文学者。