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「コロナ対策禍の国と自治体」書評 失敗が必然 「権限なし」は弁明

評者: 犬塚元 / 朝⽇新聞掲載:2021年06月26日
コロナ対策禍の国と自治体 災害行政の迷走と閉塞 (ちくま新書) 著者:金井 利之 出版社:筑摩書房 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784480074034
発売⽇: 2021/05/08
サイズ: 18cm/315p

「コロナ対策禍の国と自治体」 [著]金井利之

 コロナ禍でなく「コロナ対策禍」。コロナ対策が生む禍(わざわい)、つまり行政や政治の失敗が本書のテーマだ。
 著者の思索は、原発事故後の仕事と同じように、今回も独創的で根源的。様々な思い込みを揺るがす。
 大災害や感染症流行のような非常時には権力を集中せよ。リーダーシップを発揮せよ。こうした期待が思い込みにすぎないことを、本書は行政実務の実態から示していく。失敗は構造的に運命づけられており、過度に期待すればむしろ「対策禍」を生むというのだ。
 行政組織に、平時には何もせずに非常時対応を専門とする部署は稀(まれ)だ。だから非常時には平時の組織を転用する。できるのは平時に可能なことだけ。非常時に日常業務が消えてなくなるわけでもない。
 さらに、行政組織は社会全体と同じように「分業の網の目」だ。さまざまな組織や人が、互いに連携・協力しながら、それぞれの現場で創意工夫して地道に活動している。権力を集中して司令塔から指示しても、こうした自律分散型のネットワークを隅々までうまく動かせるわけではない。
 失敗が運命づけられた非常時の政治家は、「法的権限がない」と弁明するのが常で、それゆえ権力を集中する対応を図る。あるいは、期待に応えようとして「やっている感」を演出するために、非難対象を探して差別や分断を助長する。著者は、官邸支配を免れた地方の首長が活躍したとの構図を退けている。
 経済か、感染症対策か。この二者択一の構図も思い込みにすぎないという。
 「就労第一社会」では生きるためには仕事するしかなく、そのためには消費してもらう必要もある。しかし、仕事に出かけずとも短期には生きていける社会ならば、経済を止めて感染症対策に集中できる。今後も別の感染症蔓延(まんえん)があろう。著者によれば「ロックダウンのできる社会」に必要なのは法的権限や警察力でなく、社会生活インフラだ。
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かない・としゆき 1967年生まれ。東京大教授(自治体行政学)。著書に『原発と自治体』『自治制度』など。