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「日本の私立大学はなぜ生き残るのか」書評 強みと課題 思い込みをただす

評者: 犬塚元 / 朝⽇新聞掲載:2021年10月30日
日本の私立大学はなぜ生き残るのか 人口減少社会と同族経営:1992−2030 (中公選書) 著者:ジェレミー・ブレーデン 出版社:中央公論新社 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784121101204
発売⽇: 2021/09/09
サイズ: 20cm/355p

「日本の私立大学はなぜ生き残るのか」 [著]ジェレミー・ブレーデン、ロジャー・グッドマン

 崩壊の予測は外れた。
 日本の18歳人口は1992年を境に減少に転じ、わずか15年で6割に減った。だから大学崩壊が語られ、多ければ、200校超の私立大が閉校と予測された。
 ところが、2000年と18年を比べると、11校が消えただけで私立大の数はむしろ増えている。なぜか。本書は答えを探る。題名の印象とは違い、社会人類学者による本格的な研究だ。
 人口減少という要因がすべてを運命づけるわけではない。大学、国、自治体といったさまざまなアクターが、積極的な対応を試みた。粘り強さ、回復力と訳される「レジリエンス」が本書のキーワードだ。
 著者が現地調査した関西の私立大では、志願者が激減すると入学定員を減らし、コストも削減した。学生本位のサービスや実用的な学びを提供できるよう教育を変え、学費も下げた。高校卒業生の市場を掘り下げると、志願者は増えた。
 そのうえで本書は、私立大の4割ほどと推定される同族経営の強みを力説する。同族経営は前近代の遺物とされてきたが、著者はここにレジリエンスを見いだしている。存続を最優先に考える同族経営大学では、危機時には効率的な意思決定ができる。学校法人内部で相互支援も可能だ。
 ただし、本書を同族経営大学の全面礼賛と読むだけでは一面的だろう。著者は折に触れ、失われたものにも目配りしている。学部教育に集中した大学づくりは、学問や研究の軽視を意味した。コーポレートガバナンスの名のもと、教授会は弱まり、理事会支配やワンマン経営が温存される。
 大学は、自分が学生だった頃の経験をふまえて語られがちなテーマだが、この四半世紀に大きく変貌(へんぼう)した。黒電話が残り、固定電話が主力事業だった時代の経験で、通信業のいまを語ることはできないだろう。大学も同じだ。本書は、大学をめぐる古びた思い込みを更新する手引きにもなる。翻訳もすばらしい。
    ◇
Jeremy Breaden 豪モナッシュ大准教授 ▽Roger Goodman 英オックスフォード大教授。