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「NFTの教科書」 本物を証明 経済に大きな可能性 朝日新聞書評から

評者: 坂井豊貴 / 朝⽇新聞掲載:2021年12月11日
NFTの教科書 ビジネス・ブロックチェーン・法律・会計までデジタルデータが資産になる未来 著者:増田雅史 出版社:朝日新聞出版 ジャンル:金融・通貨

ISBN: 9784022517975
発売⽇: 2021/10/20
サイズ: 19cm/319p

「NFTの教科書」[著]天羽健介、増田雅史

 今年の春、ビープルという作家のアート作品「エブリデイズ 最初の5千日」が約75億円で落札された。ただしこの作品に物理的な実体はない。それはデジタル画像なのである。「エブリデイズ」は無数の画像を配列した美しいコラージュ作品だ。検索すれば容易に見付かるので、関心がある人は見てみるとよいだろう。問題はここからだ。なぜ誰でも無料で見られるデジタル画像に、75億円の値が付いたのか。それを可能としたのがNFT(非代替性トークン)である。「エブリデイズ」を一つの契機として、今年NFTは世を席巻し、流行語大賞の候補にもなった。本書はその第一人者たちによる包括的な案内である。
 NFTは世界に一枚しかない本物のデジタル証明書のようなものだ。重要なのは、デジタル画像はコピーできても、NFTはコピーできないこと。「エブリデイズ」の画像はコピーできても、NFTが伴っていない以上、それは偽物として扱われる。これまでデジタル画像は、原本とコピーの区別ができなかった。だがNFTはその区別を可能とする。この区別は経済的に重大な意味をもつ。一枚しかない原本には希少価値があるが、無限にタダで複製できるコピーに希少価値はないからだ。
 NFTの法的な扱いには注意が必要だ。現行の日本の民法では、物理的な実体がないものは、所有権の対象とならない。つまりNFTを事実上所有する状態は成立しても、所有権保護の対象とはならない。またNFTをもっていても、その画像の著作権までもつとは限らない。著作権までもつには別途契約が必要なのだ。法的な整備は追い付かずとも、NFTの世界は凄(すさ)まじい速さで進んでいる。美術、音楽、ゲーム、スポーツ、ファッション等の業界では、すでにNFTの活用は始まっている。
 人気歌手ユニットのパフュームはNFTアート作品を販売し、それは2万MATIC(約325万円)で落札された。MATICとは暗号資産の一種で、そのNFTを発行するブロックチェーン上の取引通貨である。現時点では、日本の暗号資産取引所ではMATICは入手できず、海外の取引所に頼る必要がある。
 NFTは、ビットコインとともに誕生したブロックチェーン技術で作成されている。NFTをコピーできないのは、ビットコインの偽札を作れないのと同じ理由による。ブロックチェーン技術によって、NFTが転売されるたびに、作者にお金が入る仕組みを付けることもできる。日本はコンテンツ大国であり、NFTとは非常に相性がよい。この「可能性の塊」の現状と未来への展望とを、執筆者たちは熱を込め語る。
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あもう・けんすけ コインチェックテクノロジーズ代表取締役。日本暗号資産ビジネス協会NFT部会長▽ますだ・まさふみ 弁護士・ニューヨーク州弁護士。IT・デジタル関係の法律問題を手がける。