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BL担当書店員が選ぶ「マイベストBL 2021」

“音を奏でる者”と“音を持たない者”、対照的な2人の恋(井上將利)

 またあっという間に一年が終わろうとしています!

 そして今年最後の「BLことはじめ」は2021年マイベスト。今年も沢山の作品が登場し悩みに悩みましたが、麻生ミツ晃さんの「世界でいちばん遠い恋」(海王社)を選ばせて頂きました。昨年刊行された「リバース」(海王社)に続き、とても丁寧に練り上げられたストーリーが素晴らしい作品です。

  本作に登場する五十鈴歩(いすず あゆむ)は重度の難聴であり、耳がほとんど聞こえません。日常会話は手話や筆談・音声認識アプリを使い、仕事も組織に属さない個人投資家として活動していました。そんな彼がある日出会ったのは公園で行き倒れていた青年・壬生十嘉(みぶ とうか)。彼は音大に通う大学生で、幼少期から我流で磨き上げたバイオリンで異端児として注目を浴びた才能を持ちながらも、周囲から孤立しくすぶっている青年でした。

 五十鈴が十嘉を助けたことがきっかけで何の接点も無かった2人が友達としての関係をスタートさせるのですが、本作では2人の会話シーンが特に丁寧に描かれており、物語にとって最も重要な要素になっています。五十鈴とは筆談やスマホの音声認識アプリを使って会話するのですが、それ故に自分の発した言葉が音として消えることなくその場に文字として残る不思議な違和感を十嘉は感じ、自分の言葉が五十鈴との会話を通じて自分自身に返ってくることで十嘉は自分の本当の想いに気付き始めるのでした。そして、自分と対照的に何気ない会話一つひとつを懸命に理解し伝えようとする五十鈴から、表現者(演奏家)として自分に足りないものを見つけていきます。十嘉が「“聞こえない”ってどんな感じだ?」と尋ねるシーンは自分が変わりつつあると自覚したと同時に、五十鈴のことをもっと知りたい、理解したいという感情が溢れ出したとても印象的な一幕でした。

 

麻生ミツ晃「世界でいちばん遠い恋」(海王社)より ©MITSUAKI ASOU/KAIOHSHA

 “音を奏でる者”と“音を持たない者”、最も対照的な2人が言葉を交わしながら歩み寄っていく。何気ない意思疎通の難しさを表現しながらもロマンチックな言葉のやり取りを描いた作者の創造力に脱帽です。

  コロナ禍で様々なコミュニケーションが変わっていく中で、伝えることのかけがえのなさを再認識させてくれた作品。まさに今年のマイベストに相応しい1冊です!

ほっこりの極み、ここにあり。(原周平)

 2021年もたくさんの新しい作品と出会うことができて、ホックホクの1年でした。マイベストを選ぶのも難しい……と思っていたところ、年末に僕の心を華麗にかっさらっていった作品がこちらです!

 お吉川京子さん(作画)・阿賀直己さん(原作)「鬼と天国 再」(竹書房)

 以前「この執着がすごい!執着萌えBL 」でも紹介させていただいた作品の続編です。教師・青鬼(あおき)と養護教諭・天獄(てんごく)が恋人になってからのお話。前作の最後からは少し経った頃なのでしょうか、2人は自然に苗字から名前で呼び合う仲になっていて、進展してる!とさっそく嬉しくなりました(笑)。天獄の表情もどこか柔らかくなっていて、過去に紆余曲折あったことにも、天獄なりにちゃんと整理を付けながら前に進んでいることが伺えます。相変わらず恋愛初心者な天獄ではありますが、青鬼との関係が彼を少しずつ変えていってるんですね。

 今回、マイベスト決定の大きな一打になったのが、このシーン。恋人だから、お泊りだからといって、必ずしもHをしなくてもいいということも青鬼から教えてもらった天獄。そしてたっぷり5ページに渡ってセリフもなく描かれるイチャイチャが、なんだかとにかくツボでした……。ほっこりの極みです。恋人らしい関係になってきた2人に、読んでるこちらまで幸せな気持ちになります~!!

お吉川京子・阿賀直己「鬼と天国 再」(竹書房)より ©Kyoko Oyoshikawa・Naomi Aga/TAKESHOBO

 でも、ただただ甘いだけに終わらないところも本作の面白いポイント。新任の女性教師に2人の関係がバレてしまったり、青鬼の母が倒れて何故か2人で実家に行くことになったりと、波乱のエピソードが続きます。新登場の新任教師・浦部先生は腐女子で、これまでの脇役とはまた一味違った魅力があり、彼女には割と共感できるところが多かったりします(笑)。また、実家に立ち寄ったことは青鬼にとってトラウマとなっていた母との確執にも向き合うきっかけになり、思わずジーンと来るシーンも。本作では、より周囲の人たちとの関わり合いの中で築き上げていく2人の恋愛模様が多く描かれ、それが2人の成長や絆をより強くすることに繋がっていることがしみじみ感じられるストーリーになっていて良かったです!

 そして、根が不器用で勝手に悩んで暴走しがちな天獄を、ちょっと年上で大人な心で受け止める青鬼が、見た目はほどほどなおじさんなのに本当にイケメン。青鬼も天獄のことを大切に思っていて、恋から愛に変化していっているのがラブシーンでの反応にも表れるなー、と。前作では体の快楽から始まった関係だったのが、いつしか心も満たされているのが伝わってきて良かった……。

 ラストで車の中で言い合いながらも交わした言葉がすさまじく心に響いたので、ぜひ読んでいただきたいです! 今回も物語もキャラクターも楽しませていただきましたが、なんと!さらなる続編が決定したとのことで、2人のこの先をまだまだ見ていられると思うと、もう楽しみすぎる2021年の締めくくりになりました♪

音声で、もっと深く!

 「BLことはじめ」執筆の井上さんと原さんが「好書好日Podcast 本好きの昼休み」にゲスト出演。2021年の売れ筋ベスト10や、それ以外のオススメ作品をたっぷり語っています。さらに沼にハマりたい方、ぜひ聴いてください!