女装男子への執着から始まる不器用でピュアな恋(井上將利)
皆さんは何かに心がとらわれ頭から離れなくなった経験はありますか? 急に脳内でエンドレスループする音楽や、最終巻まで止められない漫画とか。大なり小なり何かに執着をしたことがあるのではないでしょうか。
今回のテーマは“執着×萌え“という化学反応! 彼が心を囚われたのは、クラスメイトでした―――。
ご紹介するのは秀良子さんの「宇田川町で待っててよ。」(祥伝社)。ある日、男子高校生の百瀬は繁華街でクラスメイト・八代の女装姿を目撃してしまう。以来、百瀬は平然と学校生活をおくる八代が気になってしまい……。八代はクラスの中心的グループに属し、常に日向を歩いている“さわやかイケメン”。そんな彼がまさかあんなに可愛い女装を……⁉︎
その姿が頭から離れない百瀬がもう一度同じ場所を訪れると、そこには可愛く着飾り、一人佇む八代の姿があったのでした。
百瀬に話しかけられ焦って逃げようとする八代でしたが、百瀬がまさかの告白! 可愛いことを理由に「付き合って下さい」と。突然すぎる事態に完全にテンパる八代が結構マジで可愛いんです(笑)。
「…んだよぉー」とか「はなせよぉー」って八代が言うんですが、絶対普段の声のトーンより高い声が出てる(はず)。
毎日、百瀬の視線を感じて怖がる八代。告白はしたものの、執拗に避けられ続ける百瀬でしたが、それでも遂には自分の姉の制服を半ば強引に着させて……。
百瀬が執着しているのは八代自身ではなく八代の女装姿。最初はそんな印象を受けました。まだ自分が何に魅かれているのかに気付いていなくて、粗削りな感情がむき出しのまま相手にぶつかっていって。だから伝えたい想いや行動が意図せず相手を傷つけ、自分が傷ついてしまうことも。ひたすら不器用な愛情が制御できず溢れていってしまう、そんな表現が本当に素晴らしい作品です。
百瀬の執着も物語が進むにつれて探求心から純粋な愛情に。まっすぐで曇りのない、力強い想いに成長していきます。その過程を是非楽しんで頂きたいと思いますし、今回あまり触れなかった八代の視点・心情にも本作の見どころが満載です。
読み終えた時には「宇田川町で待っててよ。」というタイトルが、言葉が、心に響くはず!
こじらせ30オーバー男たちの執着愛(キヅイタラ・フダンシー)
2月のテーマは「この執着がすごい!執着萌えBL」です。“執着”っていうとなんだかネガティブなイメージもありますが、嫉妬・独占欲・依存にまみれる男の恋愛って単純にラブラブな作品よりもなぜかイイ~!ってなる気がします(笑)。今回はそんな作品の中からこちらを紹介させていただきます!
お吉川京子さん(作画)・阿賀直己さん(原作)「鬼と天国」(竹書房)。
手に取ったきっかけは表紙イラスト。ちょっと疲れた感じのおじさんに惹かれました(笑)。上下巻の作品で、2冊並ぶととってもいい感じにまとまっています♪
他者との関わりを持つことをあまり好まない教師・青鬼(あおき)。担任クラスの生徒が保健室に引きこもりがちな理由を探るため、養護教諭・天獄(てんごく)の元を訪れます。ほとんど会話もしたこともない二人でしたが、青鬼は天獄の視線に苦手意識を持っていました。生徒のことを話しているはずが、いつの間にか会話のペースは天獄に握られ、「青鬼先生ってくたびれた見た目のわりに少女のような潔癖さがあるんですよね」なんて言われて、キスまでされて……。
あまりに唐突な行為に逃げ出す青鬼でしたが、生徒に改めて話を聞くと、天獄との関わりが何か良い影響を与えていることを知り、再び保健室に足を運びます。人のことを見抜くことに優れた天獄に、今まで閉じ込めていた感情や、自分も気づいていなかった快感を引きずり出されていく青鬼。二人の行為は回数を重ねるごとに次第にエスカレートしながらも、特別な感情が生まれ始め――。上巻は主に青鬼の、下巻では天獄の過去や抱えるものが描かれ、他のキャラクターも絡みながらストーリーを盛り上げてくれます。
この作品の“すごい執着!”というポイントは、相性の悪そうだった二人が執着しあうようになっていくところ。幼少期に受けた母親からの体罰により、他者の視線や他人との関わりを避けるようになり、目立たないように、面倒に巻き込まれないように、という生き方を身につけていた青鬼は、すべてを見透かすような天獄から与えられる痛みや安らぎに、いつしか恋を自覚していきます。恋愛に関して変なポリシーのある彼、「セフレの彼を本気で好きになってしまいました」というネット相談記事を見ているところがかわいかったです(笑)。
「面白そう、楽しそう」ということが行動の原動力で、幾人もの男たちを思うがままにしてきた天獄の“無自覚な”執着。青鬼に対しても最初は玩具感覚だったのが、青鬼の見せる態度や当て馬キャラの登場で、少しずつ変わり始め、繋ぎとめておきたいと思うようになります。だけど本人が恋していると気づかない“無自覚な”執着が、どこか淡泊だった天獄に人間らしさを与えていって良きでした。
それぞれ背負ってきたこれまでの人生、本当に欲しい形での恋ができなかった二人が、体の関係からではあるものの、満たしあえる存在になっていく。30オーバーの男同士のそんな執着し合いが楽しめました! そしてとても嬉しいのが、続編「鬼と天国 再」が連載中! 二人がどんな関係を作っていくのか、楽しみに見守りたいと思います~♪
スクールカーストの頂点“神様”が抱く初めての執着(貴腐人)
今月のお題は「この執着がすごい!執着萌えBL」。“執着萌え”……。いい響きです。
というわけで選んだのは、デビュー作から「執着」の凄さを描いている左藤さなゆきさんの「プリフェクトの箱庭 1」(ブライト出版)です。
全寮制の超お坊ちゃまミッションスクールに編入を余儀なくされた佐倉澪斗(さくら・みおと)は、生徒総代である東院月人(とういん・つきひと)から学院独特の制度「監督生と指導生」の「指導生」に選ばれます。
監督生の月人は、日本有数の名家の生まれ、学院創立以来の天才でスポーツ万能、おまけに金髪にアメジストの瞳をもつ超絶美形のスーパーセレブ様。
学院の憧れである月人の「指導生」に選ばれたから学院中が阿鼻叫喚。ただでさえ「成金」といじめを受けているのにさらに追い打ちをかけられて……。
「現代日本では無いのでは?」と思うようなパブリックスクールが舞台になります。
とにかく月人の澪斗に対する執着が凄い! 己の持てる権力をフル稼働して澪斗を囲い込み、澪斗に害をなす者をザクザク切り捨てる。生徒監督生の一人、花菱が何かしらの魂胆から月人の別の顔を見せようと澪斗に接触しようとするものなら、半端なく牽制する。
月人が怖い、怖すぎる! 超絶美形が無表情で権力を振るうのがさらに怖い(でも素敵)。優しい笑顔を見せるのは澪斗にだけ。
その澪斗に対しても指導生をやめたいと申し出た時から仄暗い感情全開。自室に監禁して澪斗を好き放題(いろいろと)。澪斗を傷つける者は許さないといいながら、一番傷つけているのは自分だということに気が付かない。神様だから。
自分で「神様」と言っちゃうんです。地上の神様になれるくらいの権力と財力に囲まれ、いびつに育った月人が欲するのは澪斗ただひとり。
月人が初めてみせる執着。←はあああああああ、萌えポイントです。
キーポイントとして澪斗の亡くなった父親が絡んできます。月人が澪斗に執着するのは父親に関係があるのか? 今後の展開が気になるところです。
タイトルに「1」とあるとおり、現在、Web雑誌「Tulle」で連載中です。
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