ISBN: 9784641174726
発売⽇: 2021/11/18
サイズ: 22cm/245p
「ネット社会と民主主義」[著]辻󠄀大介
インターネットは社会や政治にどんな影響を与えているか、全国調査とウェブ調査にもとづいて分析した論文集だ。統計学の専門的手法を使うが、分かりやすく書かれており、読みごたえがある。
効率化や省力化によってユートピアが到来する。そんな語りに対して、害悪も様々に議論されてきた。サンスティーン『インターネットは民主主義の敵か』が代表だ。インターネットは、見たい情報だけを選べる。そうした「選択的接触」によって意見は過激になって、社会が分極化する。この説明は正しいか、日本にも適(かな)うか、本書はデータから検証していく。
インターネットは一方で、信頼や寛容を育んでいるという。SNSを利用すると一般的信頼が高まる。ツイッターや「5ちゃんねる」の閲覧によって異論に寛容になる。そんな傾向が観察された。
しかし逆方向の作用もある。産経サイトやヤフーニュースを見ると、自民党の岩盤支持層になりやすい傾向があるという。それでも分極化していないのは、他極の受け皿がないからにすぎない。
また、読売・産経のサイトや「5ちゃんねるまとめ」をよく利用するかどうかは、年齢や性別や学歴以上に、改憲に賛成かどうかと関係している。さらに、そうした「右派ネットメディア」をよく利用する層と、しない層では、改憲賛成の理由も異なる。メディアの排外主義的な言葉が受け手に「刺さった」可能性があるというのだ。
では、幼少時からネットに囲まれてきた若年層は、よく言われるように右傾化しているのだろうか。たしかに安倍首相(当時)に対する好感度は他世代より高く見える。だが、実は好きでも嫌いでもない好感度0を選ぶ回答が多く、政治に無関心なのが実態という。
この政治的無関心は、この本が繰り返し浮き彫りにするテーマだ。これまでは、インターネットは左右の分断を促すとされてきたが、むしろ、政治に関心ある層とない層の格差を大きくしているというのだ。右の意見をよく見る人は、左の意見もよく見るが、見ない人はいずれも見ない。情報を積極的に得る層と、無料ニュースだけで満足するような乏しい情報環境の層のあいだで、知識や参加の格差が広がる「民主主義デバイド」が進行している可能性がある。
11人の執筆者は、前提や限界をふまえながらデータを慎重に分析している。どう切り取るかに応じて、相反するかのような結論も示されるが、これは、ネット社会の両義性を示すとも読めよう。データにもとづくと、「朝日叩(たた)き」は、左への批判であるとともに、高学歴層の文化に対する批判かもしれない等、興味深い指摘は他にも多い。一読の価値ある力作だ。
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つじ・だいすけ 1965年生まれ。大阪大准教授。共著に『コミュニケーション論をつかむ』、分担執筆に永田浩三編著『フェイクと憎悪』。本書では執筆も分担し、他の執筆者は鈴木謙介関西学院大准教授ら10人。