ISBN: 9784121026743
発売⽇: 2021/12/21
サイズ: 18cm/246p
「ジョン・ロールズ」 [著]齋藤純一、田中将人
昨年はロールズ生誕から100年、『正義論』刊行から50年だった。今年に入って、彼のもう一つの代表作『政治的リベラリズム』もついに翻訳が出た。
かつて、この『政治的リベラリズム』には、批判も多かった。『正義論』からは理論的に後退して、現状肯定に陥ったというのだ。
こうした「20年ほど前に有力だった単純な断絶説」を、本書は最新成果にもとづいて退ける。本人の研究ノートや講義資料を収めたアーカイブの公開により、この10年余りでロールズ研究は変貌(へんぼう)した。そうした新しい史料や研究もふまえた、信頼できる入門書だ。
著者は、『正義論』と『政治的リベラリズム』の連続性を強調する。ロールズは「正義にかなった社会」を一貫して探究した。多様な生き方を認める立憲デモクラシーや、その政治文化は、すでに『正義論』でも議論の前提だった。なにより健全な常識こそがロールズの出発点だ。本書はこうした指摘を通じて、両方向からのロールズ批判を退けている。哲学から歴史に逃げたという批判、反対に抽象的な哲学に傾倒しすぎて、現実の不正義解消には役立たないとの批判だ。
あまり馴染(なじ)みのない読者は、理論を解説する齋藤純一執筆の章よりも先に、評伝を交えながら、背景や問題関心を分かりやすく説明した田中将人の奇数章から読み始めるのもよいだろう。若きロールズは日本軍と戦い、戦後すぐの広島も目撃している。晩年には、日本に対する原爆投下や空襲を、正当化できない民間人殺傷といって批判した。
この社会には、右もいれば左もいる。商売を大切にする人も、芸術や学問に重きを置く人もいる。価値観が割れるなか、どうすれば互いを信頼して共存できるか。いかに分断を避けて、平等な関係を守るか。価値観が違ってもだれもが支持する制度はいかに可能か。ロールズのこうした探究は、本書が示すように、分断の時代の指針となろう。
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さいとう・じゅんいち 1958年生まれ。早稲田大教授▽たなか・まさと 1982年生まれ。早稲田大などの非常勤講師。