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「権力にゆがむ専門知」書評 緊張感なき「協働」関係の危うさ

評者: 宮地ゆう / 朝⽇新聞掲載:2022年03月19日
権力にゆがむ専門知 専門家はどう統制されてきたのか (朝日選書) 著者:新藤 宗幸 出版社:朝日新聞出版 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784022631169
発売⽇: 2021/12/10
サイズ: 19cm/249p

「権力にゆがむ専門知」 [著]新藤宗幸

 2020年の日本学術会議の任命拒否問題や、コロナ禍での専門家のあり方など、政治と専門家との関係を改めて考えさせられることが多い今、思わず手に取った本だ。両者の関係が時代とともに変容してきた様子を、日本の近代化から解き明かしている。
 「専門知」は政策を作ったり、特定の分野で判断を下したりするのに必要な深い知識だ。それが集積されるのは学界だけではなく、官僚組織など多岐にわたる。
 専門的な知見から助言をする役目だが、ややもすれば政策を正当化するための道具ともなりかねない。
 本書によれば、かつて意識的な緊張関係を保っていた専門家と政治の関係が変化したのは1980年代の中曽根政権下だった。新自由主義の流れとともに国会審議を経ずに設置できる「私的諮問機関」が乱立し、多くの専門家が加わった。84~85年の15カ月間で見ると230以上の私的諮問機関があったという。公共事業の分野では、技術官僚と専門家、企業が密接な関係を築くようになった。
 同時に、学界の側から政権の政治戦略に積極的に関与しようとする「専門知の政治化」も進んだ。
 2012年に成立した第2次安倍政権で双方の接近は加速する。私的諮問機関に代わり「有識者会議」が次々と作られ、かつてない専門知の動員が行われたという。政権に親和的な企業人やコンサルタントが会議に加わり、省庁では有識者の囲い込みも進んだ。
 こうした流れの中で何が起きたかは、本書に詳しい。新型コロナ対策、原子力政策、介護保険制度、司法制度改革など、一つずつ検証している。
 著者は政治権力と専門知の「協働」関係がかつてなく深まっている現状に警鐘を鳴らす。政権と専門家が互いに自律した関係を築いた上で政策が作られなければ、そのしわ寄せを受けるのは国民でしかない。まさにコロナ禍で私たちが目の当たりにした教訓だろう。
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しんどう・むねゆき 1946年生まれ。千葉大名誉教授(行政学)。著書に『官僚制と公文書』など。