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「パンダとわたし」書評 知って楽しく 眺めて愛らしい

評者: 澤田瞳子 / 朝⽇新聞掲載:2022年04月23日
パンダとわたし 著者:黒柳徹子と仲間たち 出版社:朝日新聞出版 ジャンル:動物学

ISBN: 9784022518125
発売⽇: 2022/03/18
サイズ: 20cm/265,6p

「パンダとわたし」 [著]黒柳徹子と仲間たち

 パンダ=可愛いとのイメージは、日本ではほぼ固定化している。もちろん世のキャラクターの中には、やさぐれたパンダや隻眼にくわえ煙草(たばこ)のパンダなども存在するが、その強面(こわもて)は愛らしいパンダイメージを踏まえていればこそ面白い。
 本作はそんな誰もが知るパンダを、生物的・飼育史的などあらゆる側面から切り取ったパンダ読本。収録されている写真は、残念ながらさして多くない。しかし写真がなくとも本書を読めば、誰もがまるでパンダと親しく付き合ったかのような親近感を抱くことは請け合いだ。
 なにせ本書への寄稿は計二十九人。日本舞踊家や落語家から見たパンダという切り口はそれだけで面白いし、現在、全国の大丸松坂屋のキャラクターとして愛される「さくらパンダ」考案者である松坂屋名古屋店店長や上野動物園にほど近い池之端三丁目町会長の語るパンダ愛には心打たれる。なぜ人間はパンダを可愛いと感じるのかという科学分析、世界の動物園におけるパンダ獲得の諸相などなど、誰かについ話したくなる知識も多い。ちなみに私は、ファッション雑誌「アンアン」の名称が、元はモスクワやロンドンで飼育されたパンダの名であると初めて知った。
 本書の総監督とも呼ぶべき黒柳徹子さんは、日本でパンダが知られる前からのパンダファン。そんな黒柳さんはすでに半世紀前、『パンダと私』というパンダ本を上梓(じょうし)していらっしゃる。ならば今回の『パンダとわたし』とは――と考えながら本書を読むと、色々な人から見たパンダ観を知る中で、自分にとってパンダとは何かとおのずと考えさせられる。タイトルの妙にはまさに膝(ひざ)を打った。
 ちなみに本書は装丁すべてがパンダカラーである白黒で統一されている上、半透明のカバーはパンダのふわふわ感を思わせる。知って楽しく、眺めて愛らしい、まさにパンダそのもののような一冊である。
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くろやなぎ・てつこ 1933年生まれ。俳優。上野動物園のパンダの名前候補の選考委員も務めている。