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「検証 安倍政権」書評 学術的にたどる意思決定の過程

評者: 犬塚元 / 朝⽇新聞掲載:2022年04月30日
検証安倍政権 保守とリアリズムの政治 (文春新書) 著者:アジア・パシフィック・イニシアティブ 出版社:文藝春秋 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784166613465
発売⽇: 2022/01/20
サイズ: 18cm/388,7p

「検証 安倍政権」 [著]アジア・パシフィック・イニシアティブ

 いまも評価の割れる安倍政権について、首相・閣僚・官僚ら54人に聞き取りを実施し、学界の実力者たちがテーマ別に検証した成果だ。官邸主導にあって、だれが、どのように政策や人事を決めていたか。その一端を学術的に解明した点が、最大の特長だ。
 なぜ第2次安倍政権は、長く続いたか。たしかに平成の政治改革で首相に権力が集中したが、それだけで強いリーダーシップや長期政権が自(おの)ずと生まれるわけではない。同じ人事権があれど菅政権は短命だった。
 本書で中北浩爾は、長期政権となった一因として、求心力あるチームが首相を支えた点を強調する。
 官邸主導を牽引(けんいん)したのは小泉政権では経済財政諮問会議だったが、この政権では、官房長官―副長官―副長官補のラインだった。内閣官房のこの指揮系統を軸に、一方で「官邸官僚」を重用し、他方では、第1次政権後も安倍を支え続けた政治家を配置した。強く結束したこの官邸チームが安定政権の基盤となった。
 官邸主導による決定過程の具体例も鮮明に描かれている。リフレ派を登用したなかで、どのように消費税を増税したかをめぐる上川龍之進の章、TPPの交渉と調整をたどった寺田貴の章は、聞き取りを存分に活用して意思決定のアクターやプロセスに迫っている。
 右派政権というだけでは十分に説明できない点もあった。選択的夫婦別姓や女性・女系天皇には頑(かたく)なだったが、本書で辻由希は、女性登用の数値目標義務化や幼保無償化など、政権が女性政策で「一定の成果」を挙げたと評価し、その理由や担い手を説明している。
 もとよりインサイダーの聞き取りという手法には、得手不得手がある。たとえば公文書改竄(かいざん)やネポティズム(縁故主義)のような問題については、別の手法で評価する必要があろう。だが、政権の意思決定過程を跡づけた本書は、安倍政権を論じるために必ずふまえるべき基本文献となろう。
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一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブは2017年設立のシンクタンク(船橋洋一理事長)。