ISBN: 9784873119854
発売⽇: 2022/03/22
サイズ: 21cm/406p
「デザインと障害が出会うとき」 [著]グラハム・プリン
イームズ夫妻の有名な椅子は、彼らが傷痍(しょうい)軍人のためにデザインした、脚の添え木にルーツがあった。
この逸話から語り始める。著者の主張は明快だ。アートスクールで学んだデザイナーは、障害者向けのプロダクトに貢献できるし、貢献すべきだ。
これには批判がある。
「デザイナーの独りよがり、わがままだ。障害者は、目立たない義肢や補聴器を望んでいるのに」
著者はこうした批判にメガネを挙げて応える。
メガネは医療器具から、選択を楽しむファッションアイテムへと変わり、気後れを感じる人が減った。目立たない義肢を好む障害者もいれば、選択を楽しみたい障害者もいる。義肢が自己イメージやアイデンティティーと関連するならば、本人が気後れせずに誇りをもって着用できるとよい。
別の批判もある。
「問題の深刻さが分かっていない。日々の問題解決のためには、美しさより実用性が優先される」
デザインと障害の健全な緊張関係は実り多い。著者はそう応じる。チャールズ・イームズやジョナサン・アイブが語ったように、デザインと機能は二者択一ではない。従来の価値観を問い直すことで、新たな課題も明らかになる。
英語の「イエス」には幾多の抑揚表現があり、それぞれニュアンスが異なる。だから、コミュニケーション補助具によって自己表現を支援しようとするなら、情報だけでなく、表現も含めて音声をデザインする必要がある。インタラクションデザインの出番だ。
いくつもの具体的なプロダクトの紹介が、主張に説得力を与えている。本の約三分の一を占める、写真ページの美しさを書評では伝えられないのが残念だ。
では、高齢者や被災者に提供される物やサービスはどうか。そんな問い直しにも誘われた。切実だからこそ、むしろ対応や発想が硬直化してしまう。ほかにもあるのではないか。
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Graham Pullin 1964年生まれ。英国を中心に活動するデザイナー、研究者、教育者。英ダンディー大で教える。