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「職業としての官僚」/「現代官僚制の解剖」 改革の道筋ただし再生策を探る 朝日新聞書評から

評者: 犬塚元 / 朝⽇新聞掲載:2022年06月25日
職業としての官僚 (岩波新書 新赤版) 著者:嶋田 博子 出版社:岩波書店 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784004319276
発売⽇: 2022/05/23
サイズ: 18cm/246,20p

現代官僚制の解剖 意識調査から見た省庁再編20年後の行政 著者:北村 亘 出版社:有斐閣 ジャンル:政治・行政

ISBN: 9784641149403
発売⽇: 2022/04/05
サイズ: 22cm/228p

「職業としての官僚」 [著]嶋田博子/「現代官僚制の解剖」 [編]北村亘

 有権者が選挙で政治家を選ぶ。その政治家が、有権者に選ばれていない官僚を統制する。
 3者のこうした関係を現代の民主政治の核とみなすのが、従来の教科書的な説明だ。そして、この理屈が「政治主導」や「官邸主導」を正当化してきた。しかし、いまや官邸主導の弊害が語られる。官僚については、志願者減少や離職が顕著で、制度の持続可能性すら問われている。
 『職業としての官僚』は、人事院に長らく勤務した嶋田博子が、聞き取りや国際比較もふまえながら、官僚の現状とあるべき姿を論じた好著だ。社会にとっても、働く人にとっても望ましい、官僚制のあり方を探る真摯(しんし)な熱意が全編を貫いている。
 官僚の仕事は、この20年で変貌(へんぼう)したという。「大半は東大か京大卒」「同期は本省課長まで一斉昇進」「退職後も面倒をみてもらえる」といった古い常識は、本書で悉(ことごと)く覆されていく。
 国家公務員改革は、2014年の法改正でひとまず決着し、官邸主導が徹底された。内閣人事局が幹部人事を一元管理し、政策決定はトップダウンに変わった。機動性や縦割り克服といったメリットはあれど、官僚たちは人事的制裁を恐れて萎縮し、事実にもとづく直言すら控えるようになったという。
 嶋田は08年の改革基本法の「つまみ食い」を批判する。
 この改革基本法は、人事の一元管理を、行政過程や政官接触の記録や公開とセットで位置づけていたが、後者の「開かれた仕組み」の導入は先送りされた。そのため、「民主的統制」どころか、国民から閉ざされたところで政権が官僚を「家臣」のように使うしくみとなってしまった。国民の代表たる政治家の要請には無制限に応答すべきだ、との理屈から、官僚には、労働時間を問わぬ献身が課されている。
 『現代官僚制の解剖』にも、政官関係について興味深い指摘が多い。約20年ぶりの包括的な官僚意識調査にもとづく労作だ。曽我謙悟は、データから、実は「有権者と政治家の距離が必ずしも近くはなく、他方で有権者と官僚の距離は必ずしも遠くない」と、3者の考えの遠近を示している。他方、曽我や小林悠太は、有権者や政治家が争点とはしない、財政の健全化をめざす考えを官僚がもつ点も強調する。「専門性を備えた組織としての官僚制に期待される姿」とは何か、今後の大きな論点だ。
 北村亘は、日本の官僚制を「スリムすぎる」と表現した。「大きな政府」と嘯(うそぶ)いて、官僚を邪悪な敵に見立てても、問題は解決しない。2冊は、いかに官僚制に有能な人を集めて、うまく機能させるかを考える導きとなる。
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しまだ・ひろこ 1964年生まれ。京都大教授(人事政策論)。著書に『政治主導下の官僚の中立性』▽きたむら・わたる 1970年生まれ。大阪大教授(行政学、地方自治論)。著書に『政令指定都市』など。