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「ある愚直な人道主義者の生涯」書評 弱者のために闘った弁護士の実像

評者: 保阪正康 / 朝⽇新聞掲載:2022年07月16日
ある愚直な人道主義者の生涯 弁護士布施辰治の闘い 著者:森 正 出版社:旬報社 ジャンル:伝記

ISBN: 9784845117598
発売⽇: 2022/05/12
サイズ: 20cm/269p

「ある愚直な人道主義者の生涯」 [著]森正

 近代日本にあって、布施辰治の名は山崎今朝弥(けさや)と共に忘れてならない弁護士である。すでに著者は布施の評伝を著しているが、こういう時代だからこそ弱者のために闘った彼の実像を語らねばと、より視点を明確にして編まれた書だ。
 「布施人道主義」という語のもと、72年の人生を六つの時期に分けて、歴史的事件の弁護活動を紹介していく。例えば、第3期の大正元(1912)年から同12年、布施が31歳から42歳まで。この期は憲政擁護運動や労働運動など多様な権利獲得運動が起き、布施ら「先進的な弁護士が法律専門家として活躍した」。布施は自覚的・主体的にその役を担った。拷問などが当然だった時代に徹底して抗してもいる。
 各時期にいかなる形で民衆のために闘ったかを語り、具体的な事実を紹介する。著者の筆は畏敬(いけい)の念に満ちている。それだけに、ファシズム台頭から敗戦まで、第5期の獄中体験の布施を語る苦衷の筆が辛い。