ISBN: 9784791775026
発売⽇: 2022/12/06
サイズ: 19cm/335,8p
ISBN: 9784877144937
発売⽇: 2022/11/15
サイズ: 19cm/444p
「先住民とアメリカ合衆国の近現代史」 [著]ロクサーヌ・ダンバー=オルティス/「私たちの歴史を癒すということ」 [著]ロバート&ジョアナ・コンセダイン
家族を殺し、故郷を奪った侵略者を赦(ゆる)せるか。古くて新しいこの問いに導かれ、入植者植民地の苦難を語る2冊を繙(ひもと)いた。
ダンバー=オルティスの本の原題は、『先住民たちの合衆国史』。先住民の歴史ではなく、先住民たちの視点から、アメリカ合衆国の歴史を語る本だ。
「新大陸」に到着した入植者は、「明白なる使命(マニフェスト・デスティニー)」のもと、未利用の土地を開拓して西進する。従来のそんな語りは、様々な研究成果をふまえて抜本的に書き直される。ここには以前から文明があり、国家がいくつも存在した。穀物が栽培され、水陸の交通網も整備されていた。
先住民のそうした土地や資源を奪うことで、入植者は富や権力を築く。「ジャクソニアン・デモクラシー」で知られるジャクソン大統領は、先住民虐殺によってキャリアを築いた。
著者は、合衆国史の根底には植民地主義と民間人殺戮(さつりく)があると指摘し、入植から現代の対テロ戦争までが「赤い血の糸」でつながった通史を描く。しかも著者は、合衆国の行いを「ジェノサイド」(集団殺害)と呼ぶことを躊躇(ちゅうちょ)しない。国連条約の定義に照らしてもそう呼ぶほかないというのだ。ここに「贖罪(しょくざい)と和解の歴史」は見つけがたい。
『私たちの歴史を癒(いや)すということ』はニュージーランドを舞台に、入植者(パケハ)による土地収奪や「文化的ジェノサイド」の歴史を語る。先住民マオリとイギリスの間では、1840年にワイタンギ条約が結ばれ、先住民の土地や権利を守ることが約束されたが、その後も収奪が続いた。
著者のひとりロバートは、南アフリカ・ラグビーチームの訪問に抗議して収監された刑務所でマオリと出会って、「国内に人種差別はない」との認識を改め、和解への第一歩として、ワイタンギ条約について学ぶワークショップを主催してきた。
歴史を変えることはできないが、癒やしたり、次世代に教訓を残したりすることはできる。
そんな観点を採る本書は、よりよい未来をつくるという実践的関心に彩られている。参加者に罪悪感を抱かせるワークショップは望ましくない。自己検閲や二次加害を避けるため、マオリとパケハは分けて「パラレルワークショップ」を開催している。こうした指摘が興味深い。
歴史的不正義の是正をめぐって二国の経験から学ぶことは多い。ニュージーランド国籍の政治思想史家ジョン・ポーコックは、『島々の発見』でワイタンギ条約の重要性を説き、主権と条約の先後を反転し、条約によって主権国家をつくった祖国の経験に、複数文化が共存する新しい政治の萌芽(ほうが)を認めている。
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Roxanne Dunbar-Ortiz 1938年生まれ。米国の歴史家▽Robert Consedine 1942~2022。ニュージーランドでワイタンギ条約に関する教育ワークショップを開催、海外にも広めた。Joanna Consedineは娘。