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「アンカット・ファンク」書評 思想揺さぶる巨星のセッション

評者: 藤田結子 / 朝⽇新聞掲載:2023年06月24日
アンカット・ファンク 人種とフェミニズムをめぐる対話 著者:ベル・フックス 出版社:人文書院 ジャンル:社会・文化

ISBN: 9784409031223
発売⽇: 2023/04/17
サイズ: 19cm/251p

「アンカット・ファンク」 [著]ベル・フックス、スチュアート・ホール

 音楽に例えるなら、ファンクの女王&帝王チャカ・カーンとジェームス・ブラウンのアドリブ。あるいは、アレサ・フランクリンとボブ・マーリーの異ジャンルコラボ。学術ではそれに匹敵するほどの大物同士の共演、といえばわかりやすいだろうか。
 本書は、1996年の暑夏にロンドンで行われた、黒人知識人のベル・フックスとスチュアート・ホールの対談を再現。フックスは米南部ケンタッキー州生まれ。ブラック・ライブズ・マター運動により再び注目が集まるフェミニスト理論家である。白人中産階級女性を中心とするフェミニズムへの批判で知られる。ホールはジャマイカ生まれ。英国に渡り、カルチュラル・スタディーズの創設・展開に貢献した。2人は共通して、周縁化された人々のために教育研究を続けた。
 冒頭からフックスが押し気味だ。年長のホールに対して、フェミニスト歴史学者である白人女性との結婚は、彼の仕事にどんな思想的影響を与えたのかと切り込む。ホールは、フェミニズムは自分が信じ込んでいたことを揺さぶってくれた、と誠実に答える。
 またフックスは、米国の黒人男性知識人たちが、家父長的な家族像に立ち戻ってしまうことに不満を述べる。ホールは、黒人男性が奴隷制により男性性を奪われたという言説が、「男らしさ」の外側に立つことを難しくしていると指摘する。
 2人は人種主義、家父長制とフェミニズムに関する様々な話題に触れ、ときに意見を異にしつつ、即興的にリズムを刻む。フックスがホールのことを「ハンサム」とポロリという場面は、編集されていない(アンカット)生のファンク音楽を連想させる対談ならではだ。
 各々(おのおの)の思想を学ぶにはより適した書があるし、問いに対する結論がもたらされるわけでもない。『アンカット・ファンク』の最大の魅力は、すでに旅立った巨星たちが奏でる再演のないセッションだ。
    ◇
bell hooks (1952~2021) アフリカ系米国人のフェミニスト▽Stuart Hall (1932~2014) 英国の文化理論家。