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「関東大震災がつくった東京」書評 脆弱な街に警鐘 百年前に学ぶ

評者: 澤田瞳子 / 朝⽇新聞掲載:2023年07月01日
関東大震災がつくった東京 首都直下地震へどう備えるか (中公選書) 著者:武村雅之 出版社:中央公論新社 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784121101389
発売⽇: 2023/05/10
サイズ: 20cm/245p

「関東大震災がつくった東京」 [著]武村雅之

 今年は死者・行方不明者約10万5千人もの被害を出した関東大震災から百年。本書はそんな震災の実情を地震記録や被災情報など多彩なデータを元に浮き彫りにした上で、甚大な被害を出すに至った当時の東京の姿、そして震災復興事業の意義と現在の東京の問題にも筆を及ばせた、今読まれるべき一冊である。
 東京は江戸時代にも、様々な地震に遭ってきた。だが当時の人口などを踏まえて比較すれば、関東大震災の被害は過去の地震の比ではない。筆者はその最大の原因を道路・公園などの基盤整備を行わないままに人口集中を放置してきた、明治政府の都市政策の誤りだと批判する。そもそも関東大震災の折、東京は横須賀市や鎌倉市などに比べて震源地から遠く、揺れも最大震度を記録したわけではない。それにも拘(かか)わらず下町を中心に多くの家屋が焼失し、火災による死者が出たことが、被害をかくも拡大させたのだ、と。
 その上で筆者は足かけ七年、総額7億円(現在の価格にして約4兆円)をかけた帝都復興事業について詳述する。隅田川にかかる多くの橋梁(きょうりょう)、都心部の高架鉄道などはかつての事業の様相を今日に伝えるが、ことに区画整理によって多くの寺院が郊外に転出し、結果としてそのために第2次世界大戦の空襲や戦後の混乱を免れ、江戸の文化遺産を郊外に留(とど)めることとなったとの指摘は興味深い。
 ただ残念ながら現在の東京は、百年を経た今再び首都直下型地震に怯(おび)えている。その理由を筆者は帝都復興事業に取り残された周辺地域の無秩序な開発や無計画な戦災復興、工業化に伴う地盤沈下などに求め、目指すべき町の姿が見えぬ戦後東京を批判する。
 思えば災害から社会を守ることも、また災害に脆弱(ぜいじゃく)な街を作るのも共に人間である。スクラップ&ビルドを重ね続けるかの街であればこそなお、見据えねばならぬ確かな未来があるはずと深く考えさせられる。
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たけむら・まさゆき 1952年生まれ。名古屋大減災連携研究センター特任教授。著書に『関東大震災を歩く』など。